そして最大の皮肉はここにある。調和を守るために独裁を選んだ国家が、世界で最も激しい競争社会を作ってしまった。中国の安さは、確かに脅威である。しかし同時に、その低価格の裏には、企業利益の消滅、地方債務、若者の疲弊、品質低下、供給過剰という大きな代償が隠されている。価格を下げ続けなければ生き残れない国は、世界最強に見えて、実は一度も競争から降りられない国なのである。
中国は世界市場を制覇し
自らの市場を壊す
中国の過当競争は、EV、電池、太陽光パネルだけでは終わらない。生成AI、ロボット、ドローン、蓄電池、原子力、医薬品、工作機械へと広がり、2030年代には「中国が参入した産業から利益が消える」という現象が世界を覆うだろう。
中国企業は性能を上げながら価格を半分にし、欧米や日本の企業を市場から退出させる。一見すれば、中国の完全勝利である。しかし、その先には恐ろしい逆説が待っている。
競争相手を滅ぼした中国企業も、国内の競争からは逃れられない。昨日の勝者が今日の敗者となり、価格を下げ、利益を失い、政府と銀行に支えられながら生産を続ける。中国は世界の工場を独占しても、世界の利益までは独占できない。
中国を倒すのは、米国でも日本でもないかもしれない。中国を最後に追い詰めるのは、中国が育てた「過当競争」そのものである。
中国は世界へ過当競争を輸出し、あらゆる製品の価格を破壊するだろう。しかし価格を壊し続けた先で、中国が最後に壊すものは、競争相手の産業だけではない。自国企業の利益、自国民の希望、そして中国型成長モデルそのものかもしれない。調和を守るために独裁を選んだ国家が、世界最大の競争社会を作った。
そして世界はさらに大きな皮肉を目撃するだろう。世界市場を制覇した瞬間、中国は「勝者のいない勝利」に到達するのだ。
