2026年11月4日(水)

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2026年11月4日

現実主義と理想主義

 ところで、リアリズムを素直に翻訳すれば「現実主義」となるが、この語感にはやや注意が必要だろう。というのも、リアリズムを現実主義とするなら、リアリズム以外の物の見方は「非現実的」であって、考慮に値しないものと捉えられかねないからだ。

 詳しくは次回で触れるが、「物の見方」はリアリズムだけではなく、対抗概念として「リベラリズム」がある。リアリズムが「力による平和」であるならば、リベラリズムは「制度による平和」である。批判もあるが、国際関係論における依然とした有力な考えの一つである。

 また、リアリズムの対抗概念としてユートピアリズム(理想主義)が持ち出されることがある。確かにリアリズムは戦間期の理想主義を批判する形で登場した考えである。また、トランプ政権が今年策定した「国家防衛戦略」では〝Out with utopian idealism; in with hardnosed realism.〟としてユートピア的理想主義から硬派な現実主義への転換を訴えている。

 為政者として無責任にも空想的な平和に耽るのではなく、厳しい現実を直視して対応すべきだという点には筆者も賛成である。ただし、異なる考え方に対して「理想主義」=「非現実的」というレッテルを貼り、思考停止に陥ることは厳に避けるべきだろう。制度を信頼しきって力を放棄することが危険であるのと同様に、リアリズムの立場を〝原理的に〟採用するならば、それこそ非現実的と言える。リアリズムを推進する者としてはアンチテーゼとして理想主義ではなくリベラリズムを議論の俎上に載せるべきであり、現在の制度のどの部分が機能していないかを見極めるべきだろう。

 戦間期に『危機の二十年』を著して理想主義に警鐘を鳴らしたE.H.カーであったが、晩年には「わたしはといえば、『危機の二十年』におけるきびしい「リアリズム」をすこし恥じて、1940-41年にきわめてユートピア的な『平和の条件』を書いた」と回顧している(E.H.カー『平和の条件』(中村研一訳、岩波文庫)556頁)。彼の中にも揺らぎがあるのだろう。

 重要なのは、リアリズムやリベラリズムの考え方を時代状況に応じてバランス良く活用することであり、政治家のレトリックによって世界を理解した気になるのは危険なことである。

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