判決が出された当初は既に多くの選挙区で予備選挙の準備が始まっていたこともあり、今回の選挙で区割りが変更されることはないと予想する向きもあった。だが判決を受けて、ルイジアナ州のジェフ・ランドリー知事は、州議会が時間をかけて再区割りができるよう、5月に予定されていた予備選挙を延期すると発表した。アラバマ州も黒人有権者が多い2つの選挙区の1つを廃止する動きを示し、連邦最高裁判所もそれを認める判断を6月2日に下した。このような動きを受けて、保守的な州を中心に再区割りを行おうとする動きが見られるようになった。
党派的な区割りがされてきた米国
このような恣意的な動きを認めていいのだろうか、と疑問に思う人もいるかもしれない。米国内でも判断は一致していない。
まず、米国では選挙区割りの自由度は高く、区割りが党派的な意図に基づいて行われるのは一般的である。党派的な選挙区割りはゲリマンダーと呼ばれるが、これはかつてマサチューセッツ州知事をしていたエルブリッジ・ゲリーが主導した区割りの結果としてサラマンダー(サンショウウオに似た、火を司る精霊のようなものと説明されることが多い)に似た選挙区が1812年に作られたことに由来している。
党派的な選挙区割りは、昔から一貫して行われてきたのである。そして2019年には、特定政党を利することを目的とした党派的なゲリマンダリングの妥当性が連邦最高裁判所で争われたが、連邦最高裁判所は裁判所が判断するべき問題ではないとして党派的なゲリマンダリングの合憲性を実質的に認めている(州裁判所が独自の判断に基づいて選挙区割りを無効とする可能性はある)。
他方、現在のような時点で行われる再区割りの是非については議論が分かれている。先ほど指摘したとおり、再区割りは10年に一度だけ行われて、その区割りが10年継続するというのが、選挙のルールと理解されてきた。
最初の区割りは恣意的だったとしても、その後はそれを前提として中立的に選挙管理すべきと考えられてきた。また、それは連邦議会下院議員も望むところだった。
選挙の地盤を作るのには時間がかかることもあり、下院議員は一度区割りを行ったらその後10年かけて選挙区を育て上げてきた。それを途中でやり直すのは、住民サービスの充実を目指す点でも、自らの再選戦略を練る点でも、制約になってしまうのである。
だが、トランプ大統領はその前提を簡単に覆してしまった。その結果生じたのが、70人を超える現職議員が再出馬しないという異常事態である。現職議員32人(民主党15人、共和党17人)が引退を表明し、上院議員や州知事を目指すために下院議員の再選を目指さないのがそれぞれ16人(民主党7人、共和党9人)、10人(全て共和党)である。州の司法長官選挙に出馬するために出馬をやめた人も1人(共和党)いる。予備選挙で敗北した現職議員は、民主党が7人、共和党が4人である。
そして再区割りの結果、テキサス州18選挙区で民主党現職2人が、カリフォルニア州40選挙区で共和党現職2人が同一選挙区内で競合することになっている。これには多様な事情があるだろうが、選挙区の範囲が変わることによる不確実性の増大を懸念して出馬をやめた人も多いだろうと予想される。
