2024年4月24日(水)

研究と本とわたし

2014年10月1日

──その後、父親の転勤で東京に移られたとのことですが……。

小長谷氏:遊びもするし、勉強もする──。東京へ移っても、そうやって中学、高校と過ごしていましたが、大学や職業の選択を念頭に置いては生きていないんです。通学のため本郷三丁目駅を通っていたのですが、そこに東京大学があるなんて全然知らなかった。今日か明日のこと、せいぜい運動会とか、次の行事のことくらいしか考えていなかったんじゃないかな。

 いまは幼稚園や小学校から進路を設定して受験の道を歩んでいくケースも多いけれど、それはある面では能力の低下につながっているんじゃないかな。あまり決めつけず、幅広く心身両面を養うことがすごくだいじだと感じます。

 今回、自分の専門性の出発点がどこにあったのか、ちょっとスペシフィックに振り返ってみたら、高校三年生のときに読んだ『土と文明』(1957年初版)を思い出しました。頭のなかの本棚に収めてあったんですね。

 わたしは文明史好きなので、この本の、文明という大きな時空間を基盤である自然環境から考察する、という点がとても素敵だと思いました。

 高校三年生のとき、イギリスの大英博物館に行くことができたんです。新聞にユネスコ主催のツアーの案内が出ていて、すぐ両親に参加させてくれるよう交渉して……。父はサラリーマンでしたから、相当な負担だったはずです。だから、大学受験合格とのバーターですよ。絶対にストレートで国立大学に入る、と約束して海外旅行を手に入れました。

 本物を見ることのつよみは大きいです。高校時代は閉塞感を覚え、ちょっと世間嫌いにもなっていた時代でした。大英博物館では、物を通して人間を見るという、そのワンクッション置く感じが好ましかった。将来、こういうところで仕事をしてみたいと思いました。

 そういえば、母がつくってくれたブックカバーには、エジプトのヒエログリフのような刺繍がほどこしてあった。その実物は大英博物館にあるわけですから、ほら、つながってます(笑)。母のブックカバーは、本を読むこと、学ぶことに関わる大切な思い出ですね。


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