2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2014年10月20日

 この差額調整契約制度では、政府が設立するLLC(有限責任会社)が原子力事業者との交渉相手となるが、この交渉は民事契約であり、シビアなコスト計算がなされることから、「原子力のコストが高い」かどうかという論争は、その契約交渉の結果を見れば決着するだろう(ただし、合意基準価格には事業の利益やリスクプレミアムが含まれているため、発電コストよりは高めに決まることに留意)。

 欧州ではここ最近、再生可能エネルギーの固定価格買取制度に対する批判が強まっており、その変更が進められている。国民負担の増大がその原因だが、制度設計的にも問題が多いことが背景にある。

 設定された価格はどの再生可能エネルギー事業者にも適用され、再生可能エネルギー事業者同士には価格競争は発生しない仕組みであり、実質的には政府の補助金だと見られている。さらに、送配電事業者は再生可能エネルギー事業者が生産する電気は優先的かつ義務的に買い取らねばならず、再生可能エネルギー事業者は販売努力をする必要がない。こうした一方的な事業者支援の仕組みによって、需要家にすべてのしわ寄せがいく制度設計が大きく問題視され始めているのだ。

 一方、差額調整契約制度の下では、政府のLLCはどの事業者とも交渉できるため、事業者にとってみれば一種の競争入札に参加していることになる。そのため、基準価格の設定が不当に高く設定される(事業者が儲けすぎる)危険が小さい。また、差額調整は保証するものの、電気の引取までは保証しない。電気の生産者である原子力事業者が販売努力を行う必要があるのだ。つまり、電気が1kWhも売れなければ、差額調整契約を結んでいても1円も収入はないということである。

 そのうえ、基準価格との差を見る対象の市場参照価格は実販売価格ではなく、卸取引市場の先渡し価格を平均して算出されているため、原発の稼働率を高めて効率的に電力供給・販売しようとするインセンティブが事業者に働く仕組みとなっているのだ。

 このように、固定価格買取制度に比べ、相当競争要素を取り込んで設計されているのがこの差額調整契約制度なのである。英国政府は、副作用が強い固定価格買取制度から離れて、今後はこの差額調整契約制度を軸に据えるとしており、将来は原子力のみならず再生可能エネルギーもこの制度に移行させ、基準価格はオークションで決めるという形に持っていこうとしているようだ。すなわち、低炭素電源であれば、電源間に人為的なプライオリティやハンデキャップをつけず、技術中立的な支援方法とすることによって、再生可能エネルギーと原子力との間の競争を促進するという考え方だ。


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