政策変更リスクに対し
制度的にカバー
予見可能性向上策の第2が、政策変更によるリスクの遮断だ。英国政府は、福島第一原発事故によってドイツが脱原発政策に移行した政治的決定が民間投資家に与えた悪影響を見て、民間投資家から原子力への投資を引き出すためには、政策変更リスクを制度的にカバーしておく必要を強く感じたようだ。差額調整契約では、単なる収益平準化のための措置だけではなく、将来政策や法律が変更されて原発が廃止されたり廃炉時期が計画より早められたりした場合、原子力への差別的な規制変更、極端な安全規制変更などが生じた場合などには、その損失について補償することが定められているのだ。
さらにその補強のためもあって、政府が直接事業者と契約交渉を行ったり契約当事者となったりせず、先述のように政府が設立するLLCを間にかませて、契約も民事契約とすることによって、政権交代や政府の大幅な政策変更・組織改編などのインパクトが及ぶことを回避する設計になっている。
安全規制について付言しておけば、英国では司法によって創出されたALARP原則(As Low As Reasonably Practicable、合理的に実行可能な限りリスクを低減させる)の考え方が浸透しており、著しく不均衡に負担を強いるような規制は行われないことになっている。こうした共通理解の下で、安全規制当局と事業者との間には信頼関係が構築されており、規制事項もそれほど詳細には決められてはいないが、むしろそれがゆえに事業者も自主的な安全対策への取組みに積極的になっている。事業者にとって、安全規制機関の規制活動の予見可能性や合理性は、事業環境安定化や事業リスク低減のための重要な要素なのだ。
最後に、いわゆるバックエンド費用(廃炉や使用済燃料の処分等にかかる費用)はすべて考慮に入れたうえでの基準価格設定になっていることも指摘しておきたい。こうした支援制度を見ると、常にバックエンド費用は入っているのかと聞く人がいるからだ。廃炉費用は、その額を政府と原子力廃止措置機関(Nuclear Decommissioning Authority)とで決定し、廃炉積立計画に基づいて、運転開始後40年間で積立がなされる。上述したように、規制変更によって40年間の積立満了以前に廃炉にさせられた場合には、積立不足額は政府が補填することになっている。また、使用済燃料等については、政府が決定する処分費用から算出された廃棄物移転価格(新設原発の事業者に対して、使用済燃料等の所有権と処分責任を移転するための価格)に沿って、事業者が支払うことになる。