第3の不透明性は安全規制や規制行政の不透明性だ。中でも、いわゆるバックフィット制度(新たな知見が得られると、それに基づいて現存の施設・設備等の変更・追加などの安全対策が求められる)の運用である。日本には、米国原子力規制委員会の活動原則の一つである効率性の考え方や、先述の英国のALARP原則は定着しておらず、将来の規制変更によってどの程度の追加投資が求められることになるのか、全く予想できない。この差額調整契約制度の下では、安全規制の基本的な考え方が定まり、規制活動にブレがなくなってくるまでの間、予期しなかった安全対策費用増加が生じてもその対応が可能となろう。
しかし、いずれにせよ、差額調整契約制度は方法論でしかない。どの程度原子力を維持し、リプレースや新設をどうするのか。こうした本質的な課題に答えを出すのが先決である。この制度が審議会で議論の対象となったからといって、すわ原子力再推進かと過剰な反応をする必要はない。むしろ、原子力事業リスクが増大している現状を、クールに見つめて分析しようとする試みだと受けとめるべきだろう。
【編集部注】10月20日発売の月刊Wedge11月号掲載の本記事において、下記2点の誤植がありました。訂正の上、お詫びさせていただきます(Web上の本記事においては修正済です)。
・「一方、差額調整契約制度の下では、政府のLLCはどの事業者とも交渉できるため、事業者にとってみれば一種の競争入札に参加していることになる。そのため、基準価格の設定が不当に高く設定される(事業者が儲けすぎる)危険が小さい」の段落において、「不当に低く」となっておりました。正しくは「不当に高く」です。
・「そのうえ、基準価格との差を見る対象の市場参照価格は実販売価格ではなく、卸取引市場の先渡し価格を平均して算出されているため、原発の稼働率を高めて効率的に電力供給・販売しようとするインセンティブが事業者に働く仕組みとなっているのだ」の段落において、「平均して産出」になっておりました。正しくは「平均して算出」です。
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◆Wedge2014年11月号