政治に翻弄される原子力
CfDは方法論
このように、英国で案出された差額調整契約制度は、原子力事業のリスクや不確実性の大きさを様々な側面から分析したうえで、そのカバーをどのようにすればよいかを巧みに民事契約に落とし込んでいったものであり、よく練られた制度だと言ってよい。
日本の原子力事業は、3つの大きな不透明性に覆われている。第1に、政治的不透明性である。福島第一原発事故以降、原子力に対する信頼感は国民の間に戻ってきていないし、依然として再稼働への反対は強い。こうした世論を反映してか与党内にも慎重派は多いし、安倍政権としても政策全体の優先順位の上位にあるようには見えない。
また、それよりも何よりも、民主党政権において脱原発の流れが強くなっていった時期の印象は今でも鮮明に残っている。要するに、原子力事業は政権交代や政治のアジェンダ次第で行く末がどうなってしまうか見通せない、ということだ。この差額調整契約制度は、こうした政治の変遷によってもたらされかねない原子力事業に対するリスクをカバーするもので、投資家に対する保険ともいうべきものである。
第2の不透明性は、電力自由化や核燃料サイクル政策などエネルギー政策の行方だ。電力自由化が長期のコスト回収を必要とする投資を阻害することは、海外の例を見れば明らかであり、電源開発のための資金調達が難しくなっている。差額調整契約制度は、こうした政策変更による収益の将来見通しを平準化するとともに、政策や規制の大きな変更による費用の上ぶれがあってもそれが補償されることから、将来の収益水準についても予見可能性が高まる効果を持つ。