――本書で最も強調したかった部分はどこでしょうか。
佐々木:第1章で扱っている「自律的海洋資本」という部分です。天賦の恵みである海洋資源を最大限活用するために社会的な仕組みを整える必要があり、海洋環境(天然の恵み)、海洋インフラ(活動に必要なインフラ)、そして海洋制度資本(法制度、教育制度)の3つの柱をバランスをとって充実させることが不可欠であるという点です。
――既存の海洋法などの法制度ではうまく機能しないのでしょうか。
佐々木:海洋法はあくまでも基本法なので、それを具体的に深めてゆかなければなりません。法律に示された内容をどのように具体化し、実現するにはどうすればよいのかなどを考えてゆく必要があります。例えば、東北の太平洋岸などで、大学が作る出先機関と市町村が連携しながら知識を普及し、人材を育成するなど、そうした取り組みなどが求められていると思います。アメリカでは積極的に行う仕組みがあります。
――これまでのご専門はどんな分野だったのですか。
佐々木:もともと養殖学科でナマズの養殖に取り組んでいました。しかし突き詰めてゆくと、養殖にはどうしても環境に与える影響がありまして、餌の残りが海洋を汚染するとか、そうした部分への配慮も大事だと思いました。その後、生態系をうまく利用して、放流して大きくなったものをとるのがいいなと考えるようになり、応用生態学に進みました。最初はミズクラゲの研究を東京湾でやりました。海の中ということはよくわからないことだらけでした。
その後、大学を卒業して岩手県の水産高校に就職しました。その時に、天然魚がおいしいのに十分消費されていないという現実に気づきます。さらに、当時は水産高校には、生徒がなかなか前向きな気持ちで入ってこないという現実もありました。教員として魚の生態を学びながら、自然環境のすばらしさを伝えてゆく教育に力を注ぎました。