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2014年11月12日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

繰り返しますが、皆がやっていることを我々もやっているだけなのです。そして我が国の国土の大部分は地理的にアジアに位置しているのです。この競争上の優位性を利用しないということがありましょうか。そうしないとすれば、あまりに浅慮です。

 プーチン大統領の発言には、西側の経済制裁に対する苦しさが透けているように見える。制裁はたしかに苦しい。我々を追い詰めるものだ。だが、その中でも我々は力強く独自の発展の道を歩むのだとプーチン大統領は演説の別の箇所で述べている。

ロシアにとっての日本の価値

 だが、いかに強がってみても、西側との関係なくしてロシア経済が成り立たないことは誰の目にも明らかである。それ故にプーチン大統領は、ロシアがアウタルキーを目指しているわけではないし、関係正常化への門戸は常に開いているとも強調するのである。結局のところ、西側がロシアに依存する以上にロシアは西側に依存してきたのであり、その代替手段を見つけることは短期間には難しい。

 中国を含むアジアへの言及は、こうした事情を踏まえた一種のエクスキューズのように響く。制裁があったからアジアへシフトしているわけではない。あくまで前からやっていることであり、皆も同じことはしているではないか、というわけだ。

 だが、ウクライナ危機以降、ロシアが対中接近を強めていることはたしかで、それが西側との関係を補うものであることは明らかであろう。しかし、現在のロシアには一国で中国の対等なパートナーの立場を維持することは難しい。ほかに頼るものがない状態で中国との関係を強化すれば、ロシアは中国に対して従属的な立場に立たざるを得ない。天然資源と軍事技術の供給元として利用されるのがいいところであろう。

 であるからこそ、ロシアとしてはどこかでウクライナ危機に落としどころを見つけ、西側との関係改善を図る必要がある。そのようなメッセージが見え隠れするのである。

 その意味では、ロシアにとっての日本の価値は大きい。日本は西側の一員でありながらウクライナを巡る欧州危機の当事国ではなく、中国との戦略的ライバル関係にある。ウクライナ危機の最中でもロシアが日本との関係を閉ざすことなく、10月に海上自衛隊とロシア海軍との合同演習を実施したことや(しかもロシア側はこれをただの捜索救難演習ではなく、軍事演習として実施してはどうかと日本側に打診したと伝えられる)、依然としてプーチン大統領が訪日に意欲を見せていることなどは、日本を中国に対するバランサーとしたいというロシアの思惑の表れであろう。

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