2024年7月17日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2014年11月14日

 20年ほど前には「1億総中流」という言葉が巷で踊ったが、2000年代以降、格差社会などが叫ばれるようになった。また、昨今では「ヘイトスピーチ」や「専業主婦志向の若い女性たち」など若者の保守化を思わせるニュースを聞く一方、海外の名門大学に留学する若者たちもいる。この20年間、日本人が世の中をどう見て、そこから何を感じとってきたのか――。それを大きな視野で見たものを「社会の心」と呼び、その変化についてまとめた『現代日本の「社会の心」』(有斐閣)を上梓した計量社会学が専門の吉川徹・大阪大学大学院人間科学研究科教授に話を聞いた。

――まず本書では現代の日本人の心を探るために、1985年と現在を比較されています。なぜバブル真っ盛りのこの年なのでしょうか?

吉川:今の時代認識として、終戦の1945年から昭和が終わる90年代までが”昭和”として一括りにされる傾向があります。だから”戦後初”や”戦後最大”というように、45年以降、この国ではずっと”戦後”と言い続けています。これはひとつには、メディアがそういった言説を発することが要因になっています。まあ、若い人たちにとっては、昭和についてのリアリティがないので仕方ないのかもしれませんが。

 しかし、リアルタイムでその時代を生きた世代にとっては、細かい時代の区切りがあり、たとえば高度成長期とバブル期では全く違うわけです。ただ、その右肩上がりの時代を今さら延々と語るわけにはいかないですし、一点印象深い時代で区切ろうと。それが1985年で、バブル景気の少し前なのです。この年は昭和の終わりに近いポイントで、なおかつ今を見るための絶対ゼロ点として描きやすいと思ったからです。

 実際に、今の霞が関や永田町の人たちにとっても、85年は絶対ゼロ点になっていて、その時代から良いところを継承し、そこを起点に考え始めているところはあると思います。

――なるほど、85年は日本経済も好調で、ここ20年の不景気と比較しやすい。その頃はちょうど「1億総中流」なんて言われた時代ですが、実はそうではなかったと本書で指摘されています。

吉川:高度経済成長期を経て、東京大学の先生からメディアまでが「1億総中流」や「国民の9割が中流」と言うなかで、自分の家も隣の家も確かに豊かになっていたのがこの時代です。そうした豊かさの時代変化が意識のデータにも現れているとすれば、一見つじつまが合うように思いますよね。しかしよく見直すと、そういう結果が出るようにデータを読み誤ってしまっていたところがあるのです。


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