ここ数年、「親の学歴や所得が後の子供の学歴に影響する」、「貧困が世代間で連鎖する」などといったニュースを目にすることが多々ある。国が2014年に発表した全国学力調査の結果でも、家庭の年収と学歴が高いほど、子供の学力が高いことを報告している。しかし、個人的にまわりを見渡せば、高学歴者の親が高学歴であることもあれば、そうでないこともある。こうした要因には実際どれほどの関係があるのか。そこで『何が進学格差を作るのか』(慶応義塾大学出版会)を上梓した社会階層と社会移動、比較社会学を専門とする鹿又伸夫慶應大学文学部教授に話を聞いた。
――2000年代になり、教育と親の出身階層や所得の関係などが話題となり注目を集めています。
鹿又:アメリカでは、“教育格差”に関する実証的な研究が、1960年代頃より活発になりました。多様な人種を抱えるアメリカでは、人種や貧困と進学がどう関係しているかが根深い問題としてあったためです。
日本でも、SSM調査という全国調査が1955年から10年おきに行われ、そのデータを利用した研究が行われてきました。ちょうど2000年頃に橘木俊詔氏の『日本の経済格差』(岩波書店)や佐藤俊樹氏の『不平等社会日本』(中央公論社)、そして苅谷剛彦氏の『階層化日本と教育危機』(有信堂高文社)といった本が出版され、2000年代以降そういった議論が注目を集めてきたという経緯があります。
ただ、そういった一連の研究結果に対し、私は違和感を持っていました。教育社会学を始め、教育や学歴に関する研究には、進学格差の元凶は“親の階層”や“家庭内の環境”にあるといった論調が多く、それは強調しすぎではないかというのが私の立場です。
60年代以降、アメリカではウィスコンシン大学の研究者を中心に研究が行われました。その蓄積と対比すると、日本の研究はその一部の要因しか取り入れておらず、格差だけを強調しすぎているように思うのです。