名目GDPが大事
図は、政府の公債残高、歳出と歳入の差、国債償還費、累積純歳出歳入差などの対名目GDP比の動きを見たものである。なお、この公債残高は、1000兆円と言われる国の債務残高とは定義が異なって少なめの数字になっているが、長期のデータが歳入、歳出の数字とともにあるのでこれを用いた。
まず、年々の債務増加額は、歳出から国債償還費を差し引いた純歳出から歳入を差し引いたもの、純歳出歳入差である。これを累積したものが、図の累積純歳出歳入差である。これは公債残高と等しいはずであるが、実際には、公債残高と純歳出歳入の差額の累積とは、債務の定義が異なって一致しない。とはいえ動きは良く似ている。
図から、公債残高の対GDP比を見ると、1970年代から85年まで上昇してきたが、91年まで低下した。その後、再び上昇し、それが05年まで続いた。05年から07年まで、上昇が抑えられたが、08年以降は再び上昇し159%にまでなっている。
75年から現在まで、公債残高の対GDP比が上昇せず、財政再建に近づいたと言えそうなのは、86年~91年と05年~07年のわずか7年しかない。
86年から91年の財政再建期では、純債務の累積はプラスで、決して財政黒字になった訳ではないが、名目GDPが伸びたがゆえに、公債残高の対GDP比率が低下した。同じことは、05年から07年でも言える。純歳出と歳入の差額はGDPの3%余りだったが、それでも比率は安定した。すなわち、デフレから脱却して名目GDPが増大することが財政再建のために重要である。さらに、名目GDPの増加が増収をもたらして分子を小さくする効果も大きい。財政再建に熱心な財政学者が、デフレ脱却して分母を大きくすることの重要性を認識していないようなのは不思議である。