では、どうしたら分母を大きくすることができるだろうか。もっとも重要なのは、アベノミクスの第1の矢、大胆な金融緩和政策によってデフレから脱却し、名目GDPを拡大することである。アベノミクスの第2の矢、財政政策も名目GDPを拡大する可能性はあるが、これは、歳出を増やすことだから、分子の赤字を増やしながら分母を増やすということになる。財政再建のためには推奨できない方策である。しかも、財政政策がGDPを拡大する効果は小さくなっているようである。
アベノミクスの第3の矢、成長戦略は、実質GDPを拡大するという方策である。これと大胆な金融政策を組み合わせれば、名目GDPも大きくなる。もちろん、できれば良いが、今のところ、あまり成果は出ていないようである。
問題は反動と社会保障
まず、歳入の税について考えよう。どんな税でも歳入が増えるが、課税したとき、分母のGDPが極力減らないものが望ましい。社会保障支出を、社会保険料をさらに上げて賄うという考え方もある。しかし、社会保険料は労働と雇用に対する税だから、雇用を減らしてGDPを引き下げる可能性が大きい。
消費税は、他の税と比べればGDPを引き下げる効果が小さい税と言える。ヨーロッパ諸国で消費税の一種である付加価値税が広く採用されているのは、これがを削減することの少ない効率的な税であるからだろう。
日本の場合、消費税の導入が常に問題となるのは、消費税増税前後の混乱が大きいからだ。消費税1%でGDP0.5%分の所得を奪うことになる。すると、消費税を3%引き上げれば、GDP1.5%分のマイナスのショックを経済に与えることになる。
それだけではない。消費税が引き上げられれば、その前に駆け込み需要が発生し、増税後にはその反動減が現れる。すると、経済変動が大きくなって、これが一時的なものか、永続的なものかが分かりにくくなる。さらにその後に、消費税を5%から8%に引き上げれば、本来のGDP1.5%分のマイナスのショックが現れてくる。
アベノミクスが成長をもたらすと言っても、それ以前の、0ないし1%の成長しかできなかった経済が、2%余で成長できるようになるということである。ここから1.5%を引けば成長率は0.5%になる。海外景気の不調などがあれば容易にゼロ成長に戻ってしまう。この効果を小さくするために、公共事業を積み増したのだが、建設単価が上がってしまい、GDPを増やす効果はほとんどなかったようである。