規制導入を検討する日本
米国においては、ビットコインを積極的に活用しようとするインターネット業界の人々と、あくまでも慎重な態度を貫く連邦政府や金融機関の人々が、あたかも国を東西に分けるような議論を繰り広げている。一方、日本ではビットコインは通貨かモノかという議論が提起された。マウントゴックス破綻の当事国であった日本においては、慎重論が支配するなかでビットコインの担当官庁が決定せず、法的性質が確定しない状況が続いた。
行政府の方針が決定しないなかで、いち早く行動したのは立法府であった。自由民主党のIT戦略特命委員会・資金決済小委員会は、14年6月にビットコインをはじめとする「価値記録」への対応に関する中間報告案を公表した。同報告案は、ビットコインは通貨かモノかという議論に終止符を打ち、資金決済法の規制対象となる電子マネーではなく、単なるモノでもないとして、ビットコインは「価値記録」という新しい概念であると定義した。
価値を持つ電磁的記録という「価値記録」の定義が、ビットコインの構成要素であるデータ群のいずれを指すのかは、法解釈を明確化する必要がある。しかし、同報告書の趣旨は明快である。ビットコインは安価な送金手段として利便性が高く、クレジットカードや電子マネーに比べて低い手数料で決済手段として導入できる。
ビットコインが金融ビジネスを革新する可能性を肯定し、世界でもっとも起業しやすい環境を作り出すため、自主的な民間団体を設立することを促す内容である。
14年9月には、一般社団法人日本価値記録事業者協会(JADA)が設立され、ビットコインと日本円の両替を行う取引所、ビットコインによる店舗やEコマースの決済手段を提供する企業などが参加する。民間による自主規制に対して、政府が監督者として関与すれば、英国では主流の共同規制の手法が完成する。日本は世界に先駆けて、ビットコインの共同規制を導入しようとしている。実現するためには、米国政府との政策協調が不可欠である。
自民党・資金決済小委員会の福田峰之委員長は、14年夏にクラウドファンディングで集めた資金で渡米し、ワシントンではフィンセンを訪問して政策ミーティングを行った。立法府の主導による共同規制の推進と、議員間のコネクションによる米国の規制当局との政策協調が進めば、金融機関としても「価値記録」ビジネスへの投資が容易になる。
新しい金融ビジネスの発展に不可欠とされるのが、規制手法の明確化である。日本におけるビットコインの行方は、立法府のリーダーシップに委ねられている。規制の行方次第では、日本では忘れ去られた存在であるビットコインが存在感を高める可能性がある。
仮想通貨と国家が対立する構図は、ネット時代の世界の縮図である。イノベーションに慎重な既存権力と、好機と捉えるベンチャー勢力は、対立と協調の緊張関係にある。
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