2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2009年7月29日

 「当日この『作業』に投入された当局の人員は、2万5000人との情報もあります。1万人のウイグル人を消すのに2万5000人。暴行や殺戮の痕が残らないよう、付近の道路などをすっかり洗い上げていったとも聞いています」

 天安門事件前後の話でも、同じようなことを聞いた憶えがある。事後ただちに、当局は、人の血が流れた街路を「洗って」、目に見える証拠を消したのだ、と。

東トルキスタン全体が監獄になっている

 在米ウイグル人らによると、事件から2週間が経ってもウルムチから数百キロ離れたところに住む親戚に電話は通じないという。「今、私の故郷では、実際に監獄に入っていない人でも、監獄につながれているのと同じです。東トルキスタン全体が監獄になっているに等しい」

 この言葉も、別のところで聞いたことがある。同じく中国当局から烈しい弾圧を受けているチベット人は、昨年(2008)の北京五輪後、当局の住民監視が一層厳しくなったことを評して、「もはやチベット全土が巨大な監獄となった」と語っている。

 中国共産党が、過去60年にわたって行なってきたウイグル人への弾圧のおぞましさは筆舌に尽くしがたい。イスラム教の信仰に対する弾圧はいうに及ばず、暴行や虐殺、不当逮捕、強制労働、拷問、公開処刑、女性への性的暴行、子供や女性の拉致、強制堕胎等……。こうした行為が今日も行なわれているとの報告は枚挙に暇がない。

 一見、日本の街と遜色ないかと思うほど発展した、新疆の都市部に暮らすウイグル人でさえ、信じがたいほど前近代的な社会的差別の中で生きている。近年の中国の経済発展に伴って、ウイグル人にとっての厳しい状況が改善されるどころか、むしろ悪化していることが問題なのだと、カーディル議長は語る。

 「大学卒業者でも道端でスイカ売りをするしかない。ウイグル人の20~30歳代の男性の7割近くが定職をもてない。それが実態です。能力の如何に関わらず、ウイグル人はまともな仕事にはつけないのです」

 この話を聞きながら、あることに思い至った。これまで、ウイグルやチベットでの弾圧の実態を伝えようと努めてきたつもりの、筆者を含む日本の言論人は、実は一種の「勘違い」を誘発してきたのではないか。

 ――ウイグル人やチベット人は、母国語であるはずのウイグル語やチベット語での教育が許されない。一方でウイグル人やチベット人は中国語での読み書きができないから、仕事に就くにも不利である――。

 こうした話は、最近、日本の報道等でも伝えられる。勿論これも由々しき実態なのだが、それを強調することで、別の現実を見過ごしかけてはいないか。現代では、漢民族と遜色なく中国語を話し、書き、そのうえ高い教養を身につけているウイグルの若者も少なくない。しかし、そういう人でも漢民族と同じ就職、昇職の機会は与えられないのだ。

 他方、日本を知るウイグル人は、日本のメディアが「漢民族とウイグル人の経済格差」ばかりに焦点を当てることにも疑問を呈した。「貧乏がつらい、という不満ではない。ウイグル人を人間扱いしないことが問題なのです」

 世界ウイグル会議の関係者は、別の情報も明かした。「ウルムチでの事件後、地元政府は、漢民族、ウイグル人を問わず、役人と党員に指令を出したそうです。『お前たちの将来は今にかかっている』と」


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