指令の真意はこうだ。「ウイグル人の『危険分子』を一人でも多く摘発しろ。その実績如何でいい地位を約束してやる」。事件後、家宅捜索は続いているという。もとより証拠の真偽など問われないから、「でっち上げ合戦」となって無実のウイグル人が大勢犠牲になるだろう、と在米ウイグル人はため息をついた。
青龍刀をふりかざす漢民族暴徒が物語ること
ウルムチでの事件後、事態は「漢民族住民VSウイグル人住民」の対立に発展したと伝えられ、関連映像は日本のテレビでも流された。
「長い青龍刀をもつ人が何人も見えたけれど、あんなもの一般市民がふつうにもっているのですか? 中国には銃刀法はないのでしょうか?」
至極当然の疑問が、コメンテーターの一人から漏れた。ただ、この人がまず認識すべきは、中国という国には、どれほど立派な法律があろうとも、それが守られるシステムも保障もないという点である。さらによく映像を見ると、漢民族暴徒が、同じ規格と思しき「鉄パイプ」や刀をもっているようにも見える。
「新疆では、制服を着た警察や軍人だけが『弾圧部隊』ではないのですよ。ふだん農民や商人として生活している人でも、突然豹変してウイグル人を弾圧する」
在米ウイグル人はこう語り、「ウイグル人に対しては何をしても許される」というのが、新疆での漢民族の間の不文律だと明言した。あの鉄の棒も青龍刀も、当局筋が用意し配ったものではないか、と彼らは口を揃える。
1955年の新疆ウイグル自治区成立後、軍とともに、多くの漢民族入植者が送り込まれてきた。その多くが日ごろは人民解放軍出資の企業や農場で働き、「いざ」となれば、武装する仕組みだったのだという。
新疆に限らず、各地の軍が「自活」のため、正体を隠しつつさまざまなビジネスに精を出すのは人民解放軍の「常識」だ。その業態は、軍事とは無関係に見える、農水産業、製造業、サービス業など多岐にわたる。中国に進出する多くの日系企業が、その正体を知りながら、あるいは知らずに、人民解放軍系企業と取引している事例も少なくない。
資源が豊富な新疆では、その利権のすべてを当局がコントロールし続けることが大命題だ。そのために、官民一体のウイグル人監視が機能し続けている。カーディル議長は、今回の事件で、鉄パイプや青龍刀で武装した漢民族の「暴徒」は、一般人ではなく、当局がしのびこませていた「私服警察」だと思うと述べた。しかし、ある亡命ウイグル人はいう。
「中国で、一般人を『ウイグル人弾圧』に加担させるよう煽るのは簡単です。あの国では多少金をもっている連中でも心中に憤懣を溜めている。そういう社会なんですよ。その捌け口を政府に向けさせないために、政府が民族同士の対立という構図を作り出して国民を操るんです」
この複雑な現実に対して、日本人は一体何ができるのか? カーディル議長はいう。
「日本政府、政治家の方々には、中国政府に対して今回の事件について国際的な調査を受け入れるよう求めていただきたい。財界の皆さんには、新疆に進出している多くの日系企業でウイグル人の雇用が促進されるよう、採用を工夫していただきたい」
私たちの便利で豊かな日常生活が、ウイグル人弾圧の仕組みと密かにつながっているといっても過言ではない。この現実をどう認識するか。まさに日本人の良識が試されている。
※この記事は、7月29日のカーディル議長の会見内容を踏まえ、内容の一部を更新いたしました。
(7月30日/WEDGE Infinity編集部)
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