早くから見限られていたヤヌコヴィチ
以上、マロフェーエフ文書の前半を翻訳して紹介した。
仮にこの文書が本物であるとして目に付くのは(マロフェーエフは関与を否定しているほか、文書は後から偽造されたものであるとの意見も根強い)、ヤヌコヴィチの政治生命が尽きかけており、内戦が迫っているとの見解が2月の早い段階で示されている点である。
この文書が作成された日付は明らかでないが、『スヴァボードナヤ・ガゼータ』によれば2月4日から2月12日の間とされており、この通りであれば2月21日の合意はまだ結ばれていない段階で書かれたものということになる。それでも、「いかなる合意が結ばれようともヤヌコヴィチが政治生命を保つのは不可能」と文書は断じており、結果的にこの予言は的中した。
第二に気になるのは、マロフェーエフ文書の第3項ではクリミア及びウクライナ東部のロシア編入を画策すること自体は既定路線であるかのような書き方である。これが書き手の先入観によるものなのか、これよりさらに前の段階から編入を検討する「空気」のようなものが存在していたのか明らかではない。
文書が示唆する「陰謀論」
第三に、今回のウクライナ危機が西側の「地政学的陰謀」であり、キエフでの反体制運動が西側の情報機関に操られているとする見方が、このような一種の内部文書でも示されている点である。筆者の見解としては、欧州が旧ソ連・東欧への民主化支援や一種の「緩衝地帯」化に向けた動きを続けてきたこと自体は事実であるが、それがウクライナを分裂させることを狙った陰謀であるとまでは思われない。
こうした陰謀論を公式の場でロシアが表明することは昨今では珍しいことではなくなっており、これについては小欄で取り上げたこともあるが(過去記事参照)、あくまでも西側を非難する方便のようなものであると筆者は理解してきた。しかし、このマロフェーエフ文書は内部文書でありながらこうした陰謀論に立脚しており、プーチン政権に近いオリガルヒの一角に陰謀論者が存在することを示すものとして興味深い。