2024年11月22日(金)

メディアから読むロシア

2015年3月3日

「逆説」の逆説

 それにしても、欧州評議会の「欧州地域(ユーロリージョン)」制度を編入の根拠とする論にはやや面食らう。「欧州地域」はEUで行われてきた地域間協力(CBC)に範を取ってロシアと旧ソ連諸国の間で進められてきたものだが、基本的には国境を接する地域同士の移動や産業に関する協力枠組みであり、そんなものが憲法を無視してウクライナ領を編入する根拠になる筈がない。

 文書の中ではこれを「逆説的に」と書いているが、何がどう「逆説的」なのか、さらにどう解釈すれば地域間協力が編入の根拠になるのか、筆者は幾度読み返してもさっぱり理解できなかった(そもそもウクライナが同じ根拠でロシアの領土を編入しようとしたら、それは「法的に正統」であるとロシア側は認められるだろうか?)。

 それ以外にも、この文書では政治や安全保障上の条件を無視してほぼ経済的な側面のみからウクライナ情勢が語られているきらいがあり、それがいかにも(政治家ではない)ビジネスマンが中心になって書かれたという奇妙なリアリティをこの文書に与えてもいる。

 もっとも、(マロフェーエフ文書の表現を借りれば)「逆説的に言えば」、国家の政治・安全保障の指導者であるロシア大統領(経済は首相の管轄事項)がこのようなかなり偏った観点からのみウクライナ情勢を捉えていた筈はなく、マロフェーエフ文書が実際のロシア政府の行動にどこまで影響を与えたかは疑わしいとも言える。

 クリミア半島の占拠を決定する際、プーチン大統領が集めたメンバーはパトルシェフ安全保障会議書記長、ボルトニコフ連邦保安庁長官、イワノフ大統領府長官の3人だけ(全員がプーチン大統領と同じKGB出身である)とされており、であるとするならば、やはり焦点はウクライナへのNATO拡大の可能性など、安全保障上の問題であった可能性が高いように思われる。

 また、マロフェーエフ文書ではドネツクを統合政策から除外するとしていたものの、その後、焦点となったのはまさにそのドネツクであったことからしても、プーチン政権がこの文書を丸呑みしたのでないことは明らかであろう。

 ただ、ウクライナ東部でいかにして騒擾を起こし、ロシアへと編入するのかについて、これ以降のマロフェーエフ文書で述べられている内容は現実のウクライナ情勢と符合する部分があり、興味深い。次回はこの点に焦点を当て、マロフェーエフ文書の後半をご紹介することにしたい。

  
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