――司法試験に合格され、著名な弁護士事務所に入所されたにもかかわらず、あえてそこを辞めて起業の道を選ばれました。なぜそうした決断をされたのですか。
元榮:30歳を前にすると、一度きりの人生を自分はどうしたいのかと、誰でも少しだけ考える時期がありますよね。自分は司法試験に合格して弁護士になって、やりがいのある仕事、すばらしい仲間に囲まれているけれども、まだ自分を120%最大活用できていない、という気持ちもありました。心の中になんとなくモヤモヤしたものがあって、司法試験を目指していた時の「絶対に成し遂げるぞ」という気持ちにまで高まりきれていない自分を感じる事もありました。
弁護士としてある企業買収案件に関わった時、大きな仕事をしているベンチャー企業の存在を知りました。起業や事業家という存在を27歳ぐらいになって初めて知って、型にはまった生き方よりも、ゼロから作り出すとか、無限大の可能性に挑戦する醍醐味に感銘しました。過去を振り返ると、自分も結構挑戦的な生き方をしてきたので、ここにも可能性があるのではないかと。その時に、司法試験以来ようやく「自分の道が見つかったかもしれない」といった気持ちの高まりがありまして、起業を考えてみようと思いました。
当時2003年頃はようやくブロードバンドが普及してきた時代だったので、「これからネットの時代が一段と進む。飛躍的に便利なものになって身近になる」と思いつつ、「弁護士とIT」、「法律とIT」といった組み合わせで事業のアイデアを模索する毎日を過ごしていました。そうした中で2004年の秋、「引越し比較.com」というサイトを見つけて「これだ!」と思いました。その時に、司法試験を目指した時以来の血わき肉躍る感覚にとらわれました。この感覚なら絶対にやれると思い、一刻も早く前に進もうと思って、退職を願い出ました。2005年の1月、まさに10年前でした
――私も駆け出しの時に地方支局で司法担当をやり、短い間でしたが法曹の世界を垣間見たことがあります。いわゆる「ドット・コム・ビジネス」とは相いれない世界という印象がありますが、元榮さんが挑戦しようと思われた時に成功する確信はありましたか。
元榮:私が司法修習生の時に、弁護士人口を大増員する方針が政府の審議会でほぼ決まり、とても驚きました。その時から絶対弁護士の世界は変わると思っていました。弁護士人口の予測グラフをよく見かけたのですが、弁護士の数は右肩上がりで増えてゆく。日本は人口減社会がもうすぐやってくると言われていた時に、弁護士人口が増えるというのは、これまでのルールが変わり、「一見さんお断り」の世界から進化すると思いました。弁護士が選ぶという時代から、お客様が弁護士を選ぶ時代になる。そうすると弁護士としては依頼者に積極的につながるために頑張らなければならない。インターネットが本格的に普及してくると、離婚など誰にも知られたくない案件についての情報はネットで検索するようになる。そうした世界がくるということが、確信的に見えている状況でした。