一つは、習近平の人民解放軍に対する腐敗撲滅の動きは、PLAを掌握するためであることは当然として、江沢民の力の源泉であるPLAの力を弱め奪い取る必要があったからでもあります。これが直接の、最も大きな動機であったと見ておくべきです。習に権力を集中させ、改革を進めないと共産党の統治も終わるからです。
二つ目は、それほどPLAの腐敗はひどかったということです。習がトップに就く前に、谷俊山中将(総後勤部副部長)を腐敗でたたきましたが、これが徐才厚の追い落としにつながりました。
三つ目は、上記論説が指摘するように、PLAのような硬直化した秘密主義の組織を変えるのは容易ではありませんが、それでも習は、江沢民や胡錦濤よりははるかに速くかつ強力に軍の掌握を進めている点です。
太子党の友人たちだけではなく、福建省、浙江省時代に交友のあった南京軍区出身者の登用も目立ちます。習の浙江省時代の秘書である鐘紹軍が、現在、中央軍事委員会弁公庁副主任となっており、少将のランクを与えられています。PLAを掌握する要である中央軍事委員会は、鐘が牛耳り始めていると言います。
2013年秋の『改革の全面的進化に関する決定』において「国防および軍隊改革の深化」の項目があります。その対象は、PLAの組織と編制、戦略と戦術、人材養成等すべての面に及びます。「党の絶対的指導」を行い「強い軍隊」を作るつもりです。これは上記エコノミスト誌の言うとおりです。
このように習は、確実にPLAの掌握と改革を進めています。
軍のポストがお金で売買されていたという話は、中国では今や常識となっています。志や能力ではなく、お金でポストを得た者が軍の指揮を任されても、とても戦には勝てません。
これを習は変えようとしています。『改革の全面的進化に関する決定』において、軍の調達部門や宿舎の建設といった福利厚生部門の仕組みを変えようとしていますし、軍の紀律検査委員会も強化しようとしています。それに軍組織における文官の任用についても言及しています。
しかし、改革の道程は長くて厳しいものです。エコノミスト誌が言うようにPLAは近代化に苦労するでしょう。
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