2024年6月20日(木)

「ひととき」特別企画

2015年4月3日

 西山さんの誕生日は、6月15日。空海と一緒である。そして、空海が入定した年齢と同じ、数えの62歳を迎えての高野山だった。

 「自分のなかで何か変化が生じたのか、それともほかに理由があるのか、高野山が聖地であることを久しぶりに実感できました」

 子どもの頃のある日、西山さんは父親に連れられて奥之院の参道を歩いたという。

 「そのとき、父から芭蕉の句を教わりました。『父母(ちちはは)のしきりにこひし雉子(きじ)の声』。そのとき父は、亡くなった父母を思いながら、参道を歩いていたのでしょう」

 そして西山さんもまた、亡き父・徳さんのことを思い出しながら参道を歩いた。たとえそこに葬られていなくても、奥之院はこの世を去った人の魂が「お大師様」の側へと集まる場所で、人々は、亡き人を恋しく思い、参道を歩く。

 生まれ生まれ生まれ生まれて生(しょう)の始めに暗く、死に死に死に死にて死の終わりに冥(くら)し、と空海は断ずる。人は、生の意味も死の意味も理解できない愚かな生き物。だからこそ、虚空(こくう)尽き、衆生(しゅじょう)尽き、涅槃(ねはん)尽きなば、我が願いも尽きなむ、と、すべての人を悟りに導きたいと空海は願った。祈りは、空海の生死を超えて響き続ける。その祈りに、魂が、神が、仏が、響き合う。1200年の時を重ねて、高野山は揺るぎない聖地であり続ける。

写真:森武史(もり たけし)
三重県生まれ。大阪芸術大学卒業。紀伊半島の風景を中心に撮影。写真集に「くまのみち」「絶海」「熊野修験」「神宮の森」などがある。

アイコン:「こうやくん」
高野山開創1200年 マスコットキャラクター ©こうやくんPJ

  
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◆「ひととき」2015年2月号より

 


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