チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年5月12日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 周永康元党中央政治局常務委員(=常委)が身柄拘束された情報が流れた当時と比べれば、非常に落ち着いていたという印象を受けた。もちろん日本の一部で盛り上がったような「クーデター」とかいった話ではない。

 そもそも郭伯雄に対する取り調べは予定されていたことでもある。どの組織にとっても人事は大権であり、その大権を徐才厚だけが独占して錬金術に興じているということは考えにくかった。だから郭伯雄が徐の問題にもかかわっているとの見立ては早くから党内に溢れていたのである。

 また、郭伯雄の問題は全国人民代表大会(全人代)が始まる前に、すでに公然化していたという経緯もある。

 それは全人代スポークスマンが、郭伯雄が取り調べを受けているのか否かについて質問を発したのに対して、「你懂的……?」(あなたは知っているでしょう?)と答えたことで明らかになったとされている。

 スポークスマンが語った「你懂的」という表現は、2014年3月、両会(全人代と全国政治協商会議=政協)の直前、やはり周永康が汚職の疑いで調べられているか否かを訊かれたときの、政協スポークスマンの答えでもある。

 周永康問題では、このスポークスマンの一言をきっかけに国内のメディアが堰を切ったように大胆に周問題に大きく紙面を割いて取り上げ始めたのだった。

 つまり「你懂的」という言葉は、取り調べの対象になっているか否かを訊かれたとき、暗に認めたことを意味する言葉として定着していたことになるのだ。ゆえに中国では、全人代の期間中にも正式な逮捕、または起訴の情報が流れるのではないかともちきりだったのだ。

一方的な展開の「軍VS習近平」

 情報に対する鮮度が落ちたことで、郭伯雄取り調べのニュースのインパクトはそがれてしまったわけだが、もう一つ、忘れてはならない理由があるとすれば、それは「軍VS習近平」の戦いがもはや、あまりにも一方的で、人々がスリリングな展開を期待できなくなってしまっているという理由である。

 習近平が反腐敗に力を入れると同時に「ぜい沢禁止令」を発して役人に倹約を呼びかけたとき、一罰百戒を狙って多くの会員制で隠れ家的な超高級レストランがターゲットになって次々と閉店に追い込まれていったのだが、その最初のターゲットにされたのも軍であった。

 同時に、30万元を超える高級車に軍のナンバーを付けることを禁止するなどといった引き締めも行っているのだ。

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