2024年12月26日(木)

東大教授 浜野保樹が語るメディアの革命

2009年9月3日

「森と湖のまつり」 発売:東映ビデオ 販売:東映 価格:税込 4,725円

 高倉健が映画界に飛び込んで3年経ったばかりの頃、内田吐夢監督の『森と湖のまつり』に出演する。1958年のことだ。

 内田吐夢は戦前から日本映画界を代表する監督だったが、満州に渡り、日本の国策映画会社であった満州映画協会(満映)に入る。満映理事長の甘粕正彦の最期を看取り、敗戦後も中国に残って中国映画の再建に手を貸し、1954年に帰国する。社会から見放された人々を描いたことが多く、後に代表作となる『飢餓海峡』(1965年)を撮る。高倉が出演した『森と湖のまつり』も、そういった映画の一本だった。

 デビューからプログラム・ピクチャー(注1)への出演が続いていた高倉は監督に徹底的にしごかれる。演技への容赦のない言葉に、高倉は頭に血が上り、監督を殴ろうとしたこともあった。

 そんな内田吐夢が、この映画の撮影中に高倉にこう言う。60歳の映画監督が27歳の俳優に言った言葉だ。

 「時間があったら活字(本)を読め。活字を読まないと顔が成長しない。顔を見れば、そいつが活字を読んでいるかどうかかがわかる」
(高倉健 『想』 集英社、2006年、108頁)

 高倉健は、簡にして要を得た美しい文章を書く。時折、高倉は雑誌に文章を発表しているが、最近になるにつれて、文章が素晴らしくなっているように思う。

 前述の『想』にあった「巨匠の演技指導」という高倉健の文章を読んで、彼が優れた文章家である理由を知った。それは多くの活字を読んでいるからであった。勿論、たくさん活字を読んだからといって文章がうまく書けるとは限らないが、高倉健は内田吐夢の助言に従い、少なくとも「顔は成長」したのだ。

 「男の顔は履歴書」という。ちなみに「女の顔は領収書」というそうだ。


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