2022年8月13日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2015年6月12日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 随所に銀行の様々な仕事の場面についての記述が登場する。銀行というのは古い日本の組織体質が今も残っている職場の一つだと筆者は感じているが、著者はその経験を多く描くことで、日本の組織の特徴や問題点を浮き彫りにしている。それらの評価は読者にゆだねたいが、銀行の取材を比較的長くやった筆者の経験に照らすと、合点がゆくことばかりである。

 「出世と左遷」という章があるが、そこで紹介されている2つの言葉はいかにも象徴的である。筆者が支店長に転出する際の銀行役員の言葉、そして銀行の本部に戻らず、二つ目の支店に異動する時の人事部の言葉である。

 〈君の活躍をじっくり見させてもらうよ〉

 〈すみません。本部へ呼び戻すことができなかったのです〉

 著者ならずとも脳裏に残り続けるフレーズだ。支店長に転出したまま本部に戻らないというのは、伝統的な銀行員の価値観に照らせば「左遷」ととらえられるのだろうが、著者は気にせず、2か所の支店長の仕事を充実した時間とともに過ごす。だからこそ、「人事に左遷なし」と自信を持って書けるのである。

「君は役員になれるのか」

 終章の「ビジネスマンのゴール」という部分では、管理職になっても憂鬱な人の話や、めでたく役員になっても再び、競争のスタートラインに立って、また階段を上ってゆく気分になる人の例などが紹介されていて、それぞれ印象的だ。筆者が冒頭に記した、「君は役員になれるのか」の話に通じるところもある。

 しかし、著者が主張したいのはもっと別のことである。それは本書を読んでもらえば良くわかると思うが、本書はタイトルから想像するような、ありがちな人生の指南書では決してない。読者一人一人が考え、みずから解を見いだすきっかけを与えてくれる一冊である。

  
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