人工知能はいま、つぎつぎと私たちの社会のなかに進出しはじめている。
スマートフォンに「最高の携帯電話は?」と聞けば、人工知能が「その答はご存知のはずですよ」と答えてくる。通信社の300ワードほどの短い記事を人工知能が執筆する。大学入試の小論文を人工知能が採点する。これらのことが世の中ではもう始まっている。
クイズ番組や将棋などではたびたび人工知能が人間を打ち負かすようになった。今後は、人がしている職業をつぎつぎと人工知能がするようになるともいわれている。では、その先の未来は……。
人工知能が発達する裏側で、「人工知能が人類を滅ぼすことになるかもしれない」というリスクをいう科学者や実業家が現れはじめている。2014年末には、英国の天文学者スティーブン・ホーキングが人工知能について「これまでにない速度で、みずからで発展し、再設計をしていくだろう」「人類を滅ぼすことになるかもしれない」と発言し、大きな話題になった。一昔前は“映画がせいぜい”だった人類滅亡論が現実味を帯びてきたといったら言い過ぎだろうか。
技術の進歩はとても速いものだ。人びとの知らぬ間に人工知能が人間の管理しうる範囲を超えて暴走し、人類を破滅させていくというリスクはないのだろうか……。
人工知能の発達が話題となっているいま、このようなリスクを考えておくことは無駄ではない気がする。そこで「人工知能が人類を滅ぼすリスクはあるのか」という疑問を、率直に人工知能の研究者にぶつけてみることにした。
応じてくれたのは、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊氏だ。松尾氏は、人工知能の研究を専門のひとつとしており、高度な人工知能技術を用いて大きなブレークスルーを生み出すことも目指している。その一方で人工知能学会が2014年に設置した「倫理委員会」の委員長をつとめ、人間と人工知能の関わりあい方などを、研究者だけでなく市民も含めて議論しようとしている。