たとえば日本などでは、脱税する人もいますが、徴税のため基本的には国民がどういう経済活動をしているのかちゃんと把握できる仕組みがあります。しかし、北朝鮮では住民たちがどれくらいの経済活動をし、お金をどれくらい持っているのか、きちんと把握する仕組みがない。政権が握っているお金より、一般住民が隠し持っているお金のほうがどんどん増えていっている状況です。
お金と人望や影響力はリンクしますから、指導者層がわからない資産家が生まれ、そういう人たちの周囲に人が集まり、といった段階を経て、徐々に不安定な要素が大きくなっていくのではないでしょうか。
――そういう事態の前に、住民たちが蜂起する可能性はないのでしょうか?
米村:これまで1度もないですから、今すぐにというのは難しいと思います。北朝鮮のような独裁政権は2つのメカニズムで動いています。ひとつは政権とエリート層、もうひとつは政権と一般住民とのそれぞれ緊張関係です。
北朝鮮の政権とエリート層との関係は建国以来70年近く、3世代にわたって続いているので非常に強固で安定していると見るのが自然です。一方、政権と一般住民との関係は、市場経済の広がりとともに、社会自体がどんどん変化していく中で次第に不安定さを増している。政権にとって把握が難しく、予測も困難なエリアが国内にひろがっている。ですから、エリート層によるクーデターの可能性は低いですが、いますぐということではないけれども、段々と社会が変化し、指導部が社会の変化についていけずに権威が落ち、将来的には息詰まるような管理社会、統制社会に我慢できなくなる人たちが増え、最終的には反乱などが起きる可能性はあると思っています。
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