2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2015年6月26日

――どうやって本来の仕事でない職場で働くのですか?

米村:他の仕事をしてしまうとお咎めはありますが、管理者に賄賂を渡せば、実際には炭鉱や金鉱で働いていても農場で働いていることにしてくれます。そういった仕組みそのものが非常にルーズになっているのが現状で、「食べていけないのだから仕方ない」といった共通認識が北朝鮮社会全体にあります。1990年代半ばの苦難の行軍と呼ばれる何十万人もの餓死者が出た時代を経て、それまでのカチッとした社会の仕組みが緩まったのでしょう。

――管理者が賄賂を受け取っているということは、農民などの市民だけでなく、政府関係者も副業をしているのでしょうか?

米村:そうですね。昨年1月に朝鮮人民軍の機関紙に、金正恩第一書記が軍部隊を視察した様子が掲載されていました。その中で、部隊の演習が下手だったことに怒った金正恩さんは「あなたたちは食べていかないといけないから、副業をしなければならないし、国の経済に貢献しないといけないのもわかる。ただ、軍人なのだから訓練のほうが優先されるべきだ」という旨の発言をしています。つまり、副業をしなければ食べていけないことは指導者の考え方として織り込み済みなんですよ。政府関係者も市民も少しずつ副業をすることで社会が回っているため、エリート層といえども副業を全否定することはできません。彼らは、その副業の上がりで食べているわけですから。

――一般市民の中では、先程の金鉱や炭鉱の他にどんな副業が多いのでしょうか?

米村:たとえば、とうもろこしでお酒をつくるといった食品関係の副業が一番多いのではないかと思います。 

 また秘密文書の中に出てくる孔イチョルさんという元農場員の男性は、磨鉱機と呼ばれる機械をお金持ちからの資金を得て入手した可能性が高く、それを使い金鉱ビジネスで大成功していました。

――他に、本書の中で驚いたのが覚醒剤が国内で蔓延していると。

米村:中国の北朝鮮国境地帯で、何度か北朝鮮人が覚醒剤を携帯しているのを見ましたし、かなり手に入りやすい状況になっているのは確実だと思います。

 ある北朝鮮の方の話では、かつては日本へ大量に密輸していたのですが、日本側の取締りが厳しくなり、今度は中国へ密輸したがそちらも厳しくなったので、作られたものが国内で循環するようになったそうです。


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