2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2015年7月15日

 重量ベースで輸出入の99%以上を海上輸送に依存する日本にとって、中東からインド洋を経て日本に至るシーレーンの安全は、生存のために死活的に重要だ。この事実に異を唱える人は少ないだろう。ならばこの先、機雷やテロ、紛争などによってシーレーンの安全が脅かされる事態に直面したとき、多くの国々と連携して危機に立ち向かうのは、その恩恵に浴している国の責務ではないのか。

 これまで憲法などの制約によって、安全保障をめぐる問題では常に、「日本に何ができるか」ばかりを議論してきたが、本来は「日本は何をすべきか」を考えなければならないはずだ。ホルムズ海峡における機雷掃海などシーレーンの安全を維持する活動は、集団的自衛権の行使とは少し次元の違う問題だと思うが、新たな議論の出発点とすべきテーマではないだろうか。

法案は日本の安全高める手段

 国会審議を通じて、こうした具体的な事例や現場の状況が伝えられれば、「説明不足」とか「わかりにくい」といった批判は、少しは解消されるのではないか。ただし、今回の安保関連法案審議が迷走する最大の理由は、日本の平和と安全にとって最も優先順位の高い武力攻撃に至らない侵害、いわゆるグレーゾーン事態への対処が抜け落ちてしまったからだ。

 中国を刺激するなといった圧力や、警察と自衛隊の権限争いなどがその背景として取り沙汰されている。しかし、そもそも国民の多くが、総選挙を通じて安倍政権が進める安全保障の法整備を支持し、その必要性を痛感したのは、中国が尖閣諸島の領有権をめぐって挑発を繰り返し、東シナ海上空に防空識別圏を設定、海上自衛隊の護衛艦に射撃管制レーダーを照射するなど危機をエスカレートさせているからだ。

 軍事衝突につながりかねない事態であり、日本は今、世界で最も厳しい安全保障環境に置かれているといっても過言ではない。国民にすれば、目の前の課題を議論しない国会審議を聞いていても、実感がわかないというのが本音だろう。

 とはいえ、審議中の安保関連法案の優先順位が低いかと言えば、決してそうではない。日本の平和と安全を高める手段として、極めて限定的であっても、万が一の危機に直面した際に、集団的自衛権を行使することができれば、アジア太平洋地域で圧倒的な抑止機能を果たしている米国との連携は今まで以上に強化され、中国や北朝鮮が軍事的な手段を用いて日本を挑発しようとするハードルが高くなることは間違いない。

 例えば、朝鮮半島有事で北朝鮮が弾道ミサイルを発射する場合など日本有事に直結しかねない事態において、地域の平和と安定のために汗を流す米軍をしっかりとサポートすることは、日本にとって当然だろう。さらに、他国軍に対する補給などの後方支援活動や、PKOなどの国際協力活動において駆けつけ警護が可能になれば、これまでにも増して日本がグローバルな安全保障にも貢献し、国際社会からより強固な信頼と支持が得られるだろう。

 安保関連法案は満足できる内容ではないが、成立させることが重要だ。国会審議の先には、グレーゾーン事態への対処や自衛官の身分など、まだまだ見直すべき課題は山のようにある。

  
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◆Wedge2015年8月号より


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