2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2015年7月30日

 これではコーポレートガバナンス強化の目的で導入された社外取締役制度は形骸化する。取締役会であれこれ疑問点を追及すると、社外取締役を事実上選任する権限のある経営陣からにらまれて、社外取締役として再任されない恐れがある。結果的には形式的な取締役会で事後報告だけで終了してしまう。

「疑う」ことが出発点

 2011年に発覚したオリンパスのケースは経営トップによる「ごまかし」だった、15年初めに明らかになった東洋ゴム工業の免震装置データ改ざん事件は繰り返しデータを改ざんしてきていた。現場当事者が意図的に不都合なことを隠ぺいしようとすると、部外者がその内容を見つけるのは難しいとされるが、公表されるデータだけでも子細にみるとどこかおかしい点を発見できるケースがある。

 同様のことは欧米でも起きている。欧米で普及しているガバナンス制度をすぐに日本に導入したからといって、企業の不正が減るという保証はどこにもない。01年に発覚した米国のエンロンの巨額不正事件では、社外取締役の人数だけそろえていても、不正を見抜ける人材がいなければ、「お飾り」でしかないことを証明した。

 当局はいまの社外取締役制度の問題点には気づいているようで、東芝事件を受けて何らかの対応策を打ち出そうとしている。まずは、社外取締役、監査役の独立性、能力を点検して、その人物が本当に企業の「監視役」になり得る人材かどうか洗いなおす必要がある。大学教授、官僚OBなどを肩書だけで選任しているようでは、その企業はコーポレートガバナンスを順守する意思がないとみられても仕方ないだろう。

 経済産業省は、東芝問題を深刻に受け止め、監視する立場にある社外取締役の監督機能を強化するため、会社法の新たな運用指針を発表した。指針では、社外取締役の役割は「会社業務の監督」と明示し、内部通報の窓口や、不祥事が明らかになった際の内部調査の指示をすることなどを例示し、コーポレートガバナンス(企業統治)を向上させるための社外取締役の成すべき具体的な行動を示した。

 この指針では、社外取締役に対して、業務を執行する経営陣から独立した立場で、会社業務をチェックするよう促している。この指針に沿って企業が実行していけば、社外取締役の権限は大幅に強化され、社内的には「眠れる存在」から「怖い存在」に変わるかもしれない。そうなれば、文字通り「ご意見番」としての存在意義が生まれることになる。

 企業組織、人物を信用しないことを前提とした「企業性悪説」を採用するのはじくじたるものがあるが、ここまで根深い問題になってしまった以上は、見方を180度転換して対応せざるを得ない。日本企業の信頼回復のためには、「まずは疑う」ことから出発することになる。

  
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