AIIBは、一義的に中国の政治的、経済的利益を増進する道具であり、融資に当たり環境・社会面の考慮を無視するのではないかという怖れが提起されている。これらの懸念に鑑み、中国と創設メンバーにとってAIIBが出発の時から批判を浴びないようにすることが重要である。従って、ゆっくりと急ぐことが賢明である。余りに急いで融資に走るとこれまでの成功を失う。それは中国にとってのみならず、AIIBの成功に関わっている国際社会にとっても損失である、と論じています。
出 典:Mike Callaghan‘Beijing should hasten slowly on AIIB’(July 1, 2015, Lowyinterpreter)
http://www.lowyinterpreter.org/post/2015/07/01/Beijing-should-hasten-slowly-on-AIIB.aspx
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AIIBの設立協定は6月29日に北京で署名されました。創設メンバーに名乗りを挙げた57カ国のうちフィリピン、マレーシア、タイ、クウェート、南アフリカ、デンマーク、ポーランドの7カ国は署名を見送りました。国内手続き上の理由ということですが、タイが見送ったのは不思議で、フィリピンが見送ったのは解るような気がします。
この論評の筆者キャラハンは、AIIB創設支持者であり、その立場で今後きちんとしたガバナンスを確立すべきことを説き、拙速を戒めています。これを読むと詰めるべきことが多々残っているようです。就中、事業計画が重要だと言います。どういう事業にどういう条件で投融資をしどう回収するかという銀行としての体制を整えなければ、いたずらに不良債権を作りかねないということでしょう。
AIIBは中国が最大の出資国として30%を負担し、議決権を26%握るなど、支配的影響力を持つことは疑いありません。キャラハンは、理事会を非常設としたことは賢明だといっています。経費節減にはなります。しかし、理事会には個別の案件の審査権はないようで、有名無実化する危険すらあります。筆者はAIIBが中国の利益を増進する道具だという批判を浴びないようにする必要があるといっていますが、その点こそ留意すべきです。インフラの建設は鉄道、道路にしろ港湾、運河にしろ、地政学的な状況を変えるインパクトを持ち得るが故に注意を要します。その観点からは世銀やADBが協調融資という形で協力することは中国の好みばかりでプロジェクトが選定されることを防ぐ意味があるでしょう。
去る4月、ローレンス・サマーズ元米国財務長官は、米ワシントンポスト紙への寄稿で、AIIBの創設と英国はじめ同盟国がAIIBに参加することを止められなかった米国の失敗を指して「米国が世界の経済システムの保証人としての役割を失った時として記憶されるかも知れない」と述べましたが、同じ寄稿のなかで、サマーズは、インフラ整備のファイナンスが多くの途上国の主要な関心事であるにかかわらず、左翼からの圧力が開発銀行によるインフラ・プロジェクト支援に対する制限をもたらし、米国も支持するこの政策が、中国によるAIIBの設立に途を開く一因となったと述べています。日本にはAIIBに参加する理由はありません。日本はインフラ整備の支援を得意分野としてきました。今後、日本およびADBは、この分野の支援を一層強化することが良策だと思います。
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