2011年、世界のベストショコラティエを決めるパリの「サロン・デュ・ショコラ」に初めて出展すると、最高位の5タブレットと外国人部門の最優秀ショコラティエ賞をダブル受賞した。初出場にして初のアワード受賞、そして日本人初。まぐれかもしれないと思って翌年再び出展したら、連続のダブル受賞。13年は惜しくもアワードを逃したが、14年に再びダブル受賞。
「今年のコンクールに出すのがこの4作品。日本での発売は12月からだけど、ちょっと食べてみて。まず最初は、カカオとカカオフルーツのピューレの2層。次はミルクチョコベースの2層で、上の層がカモミール、下が赤スグリと苺。切れのある酸味が口の中で香る。3番目は日向夏(ひゅうがなつ)を使ったプラリネ。そしてこれが、ペルーのカカオを使った、エルダーフラワーとカシス。ハリーポッターの杖の木の花で、ミステリアスな感じでしょ」
口の中で香るという言葉が初めて実感できる。余韻が長く残る。一粒の底力と、それを言葉にして伝えたい小山の熱意が溶け合う。
「第1ステージは小山ロールのクオリティーがすべてのお菓子を引っ張って、第2ステージはショコラが引っ張る。カカオとの出会いは僕にとって本当に大きかったと思います」
ちょっと待ってと、小山が消えた。ほどなく、独自のルートで入手した二種類のクーベルチュール(板状の製菓用チョコレート)を持ってきた。
「こっちはシエラネバダ。自由奔放で学校で先生の言うこときかへんタイプかな。こっちがペルー。花のような香りがきれいでしょ?」
覗き込む目が真剣。子どもの真っすぐな視線にやや緊張してしまう大人のように口に含むと……言葉より先に顔がほころんでしまう。ちょっと心配そうだった小山の顔もうれしそうにほころび、次の瞬間、得意そうな表情が満面に広がった。
(写真:岡本隆史)
小山進(こやま・すすむ)
1964年、京都府生まれ。大阪の専門学校卒業後、神戸の老舗ケーキ店勤務、菓子店を対象にしたコンサルティング会社経営を経て、2003年に「パティシエ エス コヤマ」を開店。内外の菓子コンクール受賞のほか、パリで最も権威あるショコラ愛好会「C.C.C.」で最高格付を獲得するなど、パティシエ、ショコラティエとして世界の注目を集めている。
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