2024年11月22日(金)

イノベーションの風を読む

2015年8月26日

 屋久島、白神山地、知床、小笠原諸島といったユネスコの自然遺産に登録されている地域は、保護を最優先すべきで、観光資源としての活用は厳重な管理のもとで限定的なものにしなければならない。しかし、文化遺産に関しては、積極的な活用と保護が両立するはずだ。ユネスコの文化遺産に限らず、文化財の補修や整備には莫大な費用がかかる。

 本年度(平成27年)の国家予算は 96兆円あまりだが、文化庁の予算は1038億円で、そのうち「文化財の適切な修理等による継承・活用等」にあてられるのは334億円にすぎない。

 観光立国の実現を力強い日本経済を立て直すための成長戦略の柱とするのであるならば、重要な観光資源である文化財の補修と整備に積極的に投資すべきだ。姫路城や金沢城などの文化財に限らず、テーマパークやショッピングモールそしてホテルなどの成功例を見ても、積極的な投資が人を呼び込むために非常に効果的かつ必須であることは明白だ。

「おもてなし」はコンテンツではない

 「皆様を私共でしかできないお迎え方をいたします。それは日本語ではたった一言で表現できます。お・も・て・な・し。それは訪れる人を心から慈しみお迎えするという深い意味があります。先祖代々受け継がれてまいりました。以来、現代日本の先端文化にもしっかりと根付いているのです。そのおもてなしの心があるからこそ、日本人がこれほどまでに互いを思いやり、客人に心配りをするのです。(ANNニュースの同時通訳)」

 IOC総会での滝川クリステルさんのスピーチの「おもてなし」という言葉が話題になった。個人的には、このスピーチに違和感を感じた。日本で滝川さんのように合掌してお辞儀をしてくれるのは、お寺の住職ぐらいのものだ。ずいぶん昔の、仏教国タイの「微笑みの国」というプロモーションを思い出した。

 それはともかく「おもてなし」は観光立国のコンテンツにはなりえない。インバウンドをビジネスとして考えれば、そのビジネスに関わる人や企業が接客に気を使うのは当然のことだ。「おもてなし」は観光客に良い体験をしてもらうための重要なサービスであることに疑いはないが、外国人観光客が日本を旅行先に選ぶ目的は、食・自然・文化などのコンテンツであって、「おもてなし」を受けるためではないだろう。

 5月6日に世界経済フォーラム(World Economic Forum)で、2015年度の旅行・観光競争力指数(The Travel & Tourism Competitiveness Index)が発表され、日本は141カ国中の9位で、アジアでもっとも競争力指数が高い国とされた。「おもてなし」が評価されたとの報道があったが、高い評価(1位)を受けたのは企業の顧客対応度(Treatment of customers)であって、滝川さんのいう「おもてなし」とは違うものだ。

 欧米からの観光客は、団体旅行やツアーではない個人手配による旅行が多い。日本の歴史・伝統文化を体験したいという欧米からの観光客にとって、観光バスに乗って観光スポットを観てまわるだけでは物足りない。しかし、個人で移動しようとすると、いろいろな情報が必要になる。

 ターミナル駅の複雑な路線図を見上げて呆然としている外国人観光客に声をかけて助けてあげるのも良いことだが、そうならないように根本的な問題を解決することが本来の「おもてなし」だろう。

【欧米からの観光客が滞在中にあると便利だと思った情報】観光庁の「2014 訪日外国人消費者動向調査」より筆者作成
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コンテンツの商品化とマーケティング

 インバウンドをビジネスとして考えた場合、その商品とマーケティングが非常に曖昧なままになっている。後編では、欧米からの観光客が期待する「日本の歴史・伝統文化体験」を商品化することと、その商品を売るためのマーケティングについて考えてみたい。

  
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