世界の金融市場が先週から今週にかけ大荒れの様相だ。アジア市場の株安の流れがそのまま欧州市場に引き継がれ、欧州株安の流れが米国市場に引き継がれ、米国株安がアジア市場に引き継がれてアジア市場も値下がりし、というスパイラルに陥った。本日午前中に急激な値下がりに対する反発が見られたが、この機会に考えてみたい。
なぜ、このような世界的な大幅調整が起きたのか。中国経済のせいだ、という論調が多い。たしかに中国経済は減速しているが、それはずいぶん前から起こっていることで、中国経済はずっと減速基調にあり、今回の連鎖的株安の説明としてはフィットしない。しかも、中国で起こっていることは、10%成長時代から7%成長時代への移行であって、あくまでも「減速」であり、日本で見られたようなマイナス成長、つまり後退ではない。バックしているのではなく、時速100キロで前進していた車が70キロで前進するように減速しただけで、相変わらず早いペースで前に走っている。中国経済が今回の一連の株安を招いたというのはあまりにも無理がある。
中国政府の規制をきっかけにした中国株安や、政府が株価対策に動いたにもかかわらず株安を止められなかったこと、人民元を「わずかに」4%程度切り下げたこと(対ドルで40%近く切り下がっていた日本円に較べれば随分小幅だが)、あるいは天津での爆発事故も含めて、こういった一連の中国の「良くない」ニュースが大きなきっかけとなったことは確かだろう。
しかし、きっかけが中国の話だったにせよ、今回の連鎖的な株安の原因は他にもある。そもそも、リーマンショックから7年にも及ぶ長期間の株価上昇は、途中欧州債務危機などがあったにせよ、かなり順調に進んできたと言える。一辺倒の株価上昇が永遠に続くはずもなく、どこかで調整が起きるのが普通だ。また、人々の心理の中にも、「そろそろ」という懸念は大きく育っていたはずだ。
そして、リーマンショック後の長期に渡る大幅な株高を支えてきたのは世界的な大幅な金融緩和だ。アメリカは5%以上あった金利を0にし、更に400兆円規模の量的緩和というとんでもない規模の金融緩和を行い、日本や欧州、他の先進国・新興国もこれに続いた。バブルは金融緩和の中で生まれ、育つ。低金利下で運用難の資金が溢れ、こうした資金が各市場に流れ込んできた、特に小さな市場は、市場規模と比べて大きな資金の流入で価格が大きくかさ上げされてきた。金融商品の価格は地面からふわふわ浮いているようなイメージのもので、バブルというのはふわふわ浮いている価格がどんどん地面から離れて上昇していくような現象だ。
金融市場の急激で大幅な調整やバブルの崩壊はこうしてふわふわと地面から遠く離れた高さまでかさ上げされた価格が地面に叩きつけられる、あるいは地面に近いところまで大きく下がるようなもので、地面からの距離が離れているものほど大きく価格を下げる。まさに豹変で、それまでの上昇相場で他のものよりも大きく上がり、素晴らしいパフォーマンスを提供していたものほど大きく下がる。なぜなら、多くの場合、地面が上昇するよりも地面から離れることのほうが容易で、ペースもずっと早いからだ。
小さな市場に流れ込んだ大量のマネーは価格をどんどんかさ上げしていき、地面から遠く離れたところまで価格を押し上げる。そして、そうした事態を招いた張本人であるアメリカの中央銀行FRBはその自覚があるからこそ、利上げの必要性、金融政策の早期正常化の必要性をメッセージとして出し続けているのだろう。そして、そうした価格かさ上げの典型例として、ハイイールド債(投機的格付債)市場とバンクローン市場を名指しで取り上げ、昨年6月にFRBのイエレン議長はこれらの市場に対する警鐘を発した。