2024年6月18日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年9月6日

元国民党兵士の再評価

 「9.3大閲兵式」の重要な点の一つとされたのが、元国民党兵士のパレード参加だ。かつて八路軍や新四軍の一員として戦争に参加した共産党の老兵士たちといっしょに元国民党兵士たちもオープントップバスに乗ってパレードの隊列に加わった。平均年齢90歳、最高齢102歳というおじいちゃんたちの一団は、共産党側はグレー、国民党側はカーキ色のかつての軍服を着て晴れやかに行進した。元国民党の兵士たちに対しては今年8月、政府から国家への貢献に感謝して1人5000元の慰問金も支払われている。

 じつは、こうした元国民党兵士の再評価は中国では画期的なことである。元国民党の兵士で戦後中国に残った人は、その後、中国共産党の政治に翻弄された人生を余儀なくされてきた。ほとんどの人がスパイとか敵対勢力だといったレッテルを貼られ、コミュニティから疎外されて社会福祉の蚊帳の外の最底辺の生活を送ってきた。日本軍との戦いでは彼らの方がより大きな貢献をしたはずだが、元国民党の兵士たちは戦後、英雄として優遇されてきた元共産党兵士とは対照的な扱いを受けてきたのだ。

 2009年にそうした歴史に埋もれた元国民党兵士の取材をまとめた本が中国で出版され、大きな話題になった。愛国的な若者の一部は自分たちでそうした元国民党兵士を探し出す活動も始めた。私が2012年に広州で取材したそうした民間団体の一つ「関愛老兵」は、全国の元国民党の兵士を探し、金銭面や精神的なサポートを行っていた。この団体のメンバーの話では、彼らの活動は政府には歓迎されていないとのことだった。共産党や中国政府は人々の愛国心を称揚する一方で、歴史に関する民間活動には警戒をしていた。民間が勝手に元国民党兵士を再評価すると、元兵士らを社会的に追い詰めた事実、つまり文化大革命などの負の歴史を掘り起こすことになるからだ。

 中国共産党にとってタブーでもあった元国民党兵士の再評価は、これまでの中国では大きな矛盾だが、政権と民族・国家を同一視することで矛盾がなくなる。「9.3大閲兵式」での元共産党兵士と元国民党兵士との世紀のコラボレーションもまた、“中華人民共和国”を伝統“中国”と重ねあわせることによって可能になったのである。

国内の求心力を高めるための「9.3大閲兵式」
愛国心を刺激するイベントとして狙いどおりの成功

 結論からいうと、「9.3大閲兵式」は広く国民の愛国心を喚起する点では大きな成功を収めた。意味と意義づけは別として盛大で華やかで、そして中国人としてのプライドを刺激する大型イベントとして多くの国民が歓喜したことはまちがいない。

 テロを警戒する中国政府は、8月下旬から閲兵式の会場となる北京市中心部の警備を強化した。9月3日を最高の晴天にするために、北京市のみならず周辺の河北省など合計7つの市と省で建設工事や工場を操業停止にした。北京市では1927社が生産縮小の対象になったが、これは昨年秋のAPECの時の約15倍にものぼる。ラーメン店で身分証提示、公衆トイレも実名報告、病院の臨時休診などネット上では嘲笑を込めて過剰な警戒の実態が拡散したが、北京の市民はオリンピックやAPECで厳しい警戒も慣れっこになっている。「9.3大閲兵式」の豪華な演出によってそうした不満も吹き飛んだかのようだ。


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