まずは文面でやりとりすることになりますが、時には"紙爆弾"と呼ばれる100問以上の大量の質問が浴びせられることもあります。文書で何度も質問と回答をやりとりし、煮詰まれば対面折衝となって、課長補佐クラスから順にランクを上げていき、最終的には局長折衝で決着させ、法律案が確定します。
政府提案の法律であれば、ここで官僚の仕事は終わりそうなものですが、この次の与党調整ステップこそが本番です。法律案ができあがれば、どんな法律でも与党審査のプロセスを通します。自民党では、政調会長の下に「政調審議会」という合議組織があり、その下に各省に対応して厚生労働部会や経済産業部会といった「部会」があります。部会には、「○○族」と呼ばれる族議員が勢ぞろいし、役所からは課長クラス以上が出席します。
所管官庁の官僚が概要を説明し、議員が意見表明や質問を行うというのが部会の流れですが、議員の支援者にとって厳しい内容があれば、「部会は脅しや吊るし上げの場になる。議員からの質問が殺到し、何日もその対応に追われることもあります」(中堅官僚)。
与党審査を通らなければ、閣議には持ち込めないため、所管官庁の担当局長や担当課長は、有力議員の顔を立てたり、なだめすかしたり、力を借りたりしながら、部会、政調審議会、総務会といったプロセスを通過させるべく全力を挙げるわけです。
政府(各省庁)は首相、大臣、副大臣といった政治家が掌握していますから、政府内(省庁間)調整が済めば、それは内閣全体の意志となります。首相は与党の議員が選んだ人ですから、与党内の調整はなくてもよさそうに見えるかもしれませんが、そうはいきません。党が同じでも議員はそれぞれ選挙区や支持母体が違いますから、異なる利害をもっています。
この与党内の利害調整を官僚にやらせるのではなく、政治家がやろう、それも幹事長や政調会長といった与党側ではなく、大臣や副大臣といった政府側でやろうというのが民主党の考えです。
先に挙げた民主党の取り組みを素直に受け止めれば、官僚がやってきた利害調整をすべて政府側の議員が担うことになります。各省協議などの政府内調整は閣僚委員会で行い、与党の政策調査会の機能はすべて政府に移管し、与党の議員は各省の副大臣が主催する「各省政策会議」で意見を言うだけにとどめる。言ってしまえば、与党内の審査プロセスはなくなるわけです。
課題は民主党内の利害調整
しかし、自民党時代に慣らされた官僚たちはみな、「本当にできるのだろうか」と首をかしげています。民主党の議員もかなり多種多様な利害を反映しているはずであり、与党内の調整を政府に一元化できるほど、その調整は簡単ではないと想像されるからです。長く与党の側にいた自民党ですら官僚に頼っていたのに、それより経験の浅い民主党の議員が、官僚に頼らなくてもいいほど、各政策の細部をきっちり理解しているとも思えないということもあるでしょう。