12時過ぎに遠くに何か人影のようなものが動いたような気配がした。目を凝らすとバックパックを担いでいるように見える二人組だ。待ちに待った他の船客に間違いない。胸が高鳴った。気持ちは水平線に船影を望見したロビンソンクルーソーである。私は待ち切れず、足早に彼らに近づいて行って挨拶した。カナダ人のカップルである。
彼らに事情を話したら「近くで見ているから安心して寝袋で仮眠しろ」と請け負ってくれた。寝袋に入ると意外に暖かく安心した途端にストンと眠りに落ちた。30分もしないうちにカナダ人に起こされ乗船開始を告げられた。
タラップで船員に乗船券を渡し半券を受け取った瞬間、安堵と歓喜が一気にこみあげて緊張の糸が切れたのか足元がふら付いた。振り返ると遠くの灯台の光が滲んで見えた。
ギリシアで最後の地“イグメニッツア”の港にて
6月1日午前10時 コルフ島(別名:ケルキラ島)からのフェリーはギリシア本土の小さな田舎町、イグメニッツアに到着。イタリアのバーリへ向かうフェリーは翌日午前1時出港予定。港で15時間の待機である。
新設のフェリーターミナルの周囲は港湾施設建設用地が広がっているだけで何もない。広いターミナルはがらんとしておりバーと小さな売店がポツンと。イタリアへ出稼ぎに行くらしいアフリカ系の労務者一家、長距離トラックの東欧系ドライバーなど十数人しかいない。バーリに着くまでの食糧は持参していたが、文庫本は持参しておらずターミナルのどこを探しても15時間を過ごす方法がイメージできない。
しかたないのでバーのカウンターでビールをやりながら大学の友人KY氏に携帯からメールで近況報告を送った。以下引用する:
『K大兄 イタリアに向け移動中ですがギリシアの田舎のフェリー乗場で深夜発のフェリーをこれから十数時間待つことに。バーでビールをチビチビやっていたら二枚の写真のパネルに目が釘付けになりました。