一方、冷戦後の世界では国連の機能不全が叫ばれ、米国やNATOがその枠外で行動する場面が目立つようになった。特に1999年、NATOが国連の付託を得ることなくユーゴスラヴィアへの空爆を敢行したことはロシアに大きなショックを与えたと言われる。空爆が始まった当時、訪米のために大西洋上にあったプリマコフ首相が、政府専用機を180度ターンさせて引き返した「プリマコフのループ」は有名なエピソードである。
このようなロシアの不満は、2003年のイラク戦争や2011年のリビア空爆でさらに強まった。国連をバイパスし、ロシアの与り知らぬところで軍事力行使が行われることは、ロシアの世界的な大国としての地位を損なう行動と映ったのである。
「我が国のヤルタ」
また、この演説の冒頭部分には「我が国のヤルタ」という文言が含まれている。米英ソ三巨頭会談で有名な黒海の保養地ヤルタは、昨年、ロシアがウクライナから併合したと主張するクリミア半島南部に位置する。ここで「我が国の」とプーチン大統領が述べたのは、ただの偶然ではあるまい。これについてカーネギー財団モスクワ・センターのコレスニコフ主任研究員は、プーチン大統領がロシアをソ連の後継国家であり、国連生誕の地であると位置づける意図があったと10月5日付『ヴェードモスチ』紙で分析している。
閑話休題。プーチン大統領は、続いて次のように述べている。
(翻訳)
いわゆる冷戦が終結した後、世界にはひとつの支配的なセンターが残ったことを我々は知っています。そして、このピラミッドの頂点に立った者は、次のように考える誘惑に駆られました。いわく、彼らはかくも強く、特別で、物事をどうすればよいか誰よりもよく知っているのだと。そして彼らには国際連合を顧みる必要などなく、国際連合は彼らの決断に判子をついて追認すればいいのだと。この組織はすでに古くなり、歴史的な使命を負えたのだという話も出ました。
たしかに世界は変化しており、国際連合はその自然な変容に合わせなければなりません。ロシアには、広範な合意に基づき、国際連合のさらなる発展に関する作業に全てのパートナーとともに関与する用意があります。しかし、我々は、国際連合の権威と正統性を損なう試みは極めて危険なものだと考えます。それは、全ての国際関係の枠組みの崩壊につながりかねないものです。そうなれば我々には力のルール以外、いかなるルールも残らないでしょう。
それは、エゴイズムが協調に、平等と自由が支配に、真の独立国家が外から指図される保護領に取って代わられる世界となるでしょう。
では、すでに同僚の皆さん達がここで語った国家主権とはどのようなものでしょうか?これは何よりも自由の問題であり、各人、各民族、各国家が自らの運命を自由に決せるということであります。
そこで、尊敬する同僚の皆さん、いわゆる正統な政府というものについても語りたいと思います。言葉を弄んではなりません。国際法及び国際関係においては、それぞれの擁護は明確かつ透明でなければならず、共通の意味を持ち、共通の基準で定義されなければなりません。我々はみんな違っているのであり、そのことについて敬意をもって臨まねばなりません。何人も、誰かが正解だと決めた単一の発展モデルに従わされる必要はないのです。
我々は過去の経験を忘れてはなりません。たとえば我々はソ連邦の経験を援用することができます。ソ連は社会実験を輸出し、イデオロギー的な理由から他国の社会変革を推進しましたが、その結果はときとして進歩ではなく混乱でした。
しかしながら、誰もがそのような誤りに学ぶわけではなく、それを繰り返す者もいます。そしていわゆる「民主的な」革命の輸出を続けています。
これ以前の登壇者の方が触れた、中東及び北アフリカの状況を見れば充分でしょう。たしかにこれらの地域における社会経済的状況は長らく混乱しており、人々はそれを変革したがっています。ですが、実際の結果はどうでしょうか? 改革をもたらす代わりに、攻撃的な介入が国家機関と現地の人々の生活を破壊しているではありませんか。民主主義と進歩の代わりに、今そこにあるのは暴力、貧困、社会不安、そしてただ生きる権利を含めた人権の全くの無視ではありませんか。
(翻訳ここまで)