ワクチンがあれば必ず現れる
宗教・サプリ・民間療法
例えば、昨年の線維筋痛症学会では、「世界日報」の腕章をつけた記者が最前列で写真を撮るなど目立つ行動をとっていた。世界日報は、世界基督教統一神霊協会(統一協会、8月に世界平和統一家庭連合と改称)と関係が深いと報じられてきたメディアである。全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会神奈川県支部は、今年8月30日、日本ホメオパシー医学協会から講師を招いて勉強会を行っている。
2012年には、婚前の性交渉を否定する同教団との関係が噂される女性国会議員が、「性の乱れを助長する」としてワクチン導入に猛反対。この議員は以前より、避妊を含めた性教育にも反対していた。
ステロイド・パルスならぬビタミン・パルス療法なるものを提供するクリニックも登場した。ビタミン剤を大量投与すると脳の血流が改善するのだそうで、黒川祥子著「子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち」(集英社)に登場する「ワクチンのせいで化学物質過敏症と電磁波過敏症になった」という少女の母親によれば「ビタミンの点滴が1回1万5千円、パルスで入院すると10万円」。少女の場合、月4回のビタミンの他に様々なサプリも飲んでいるので月10万円はかかる。
その他、人気があるのは、酵素ジュースや酵素風呂、整体、カイロプラクティックなど。副腎を鍛える整体(1回1万円)もあり、核酸・水素サプリ(月3万円)、ミドリムシ・ビタミン(月1万円)、マコモ茶・麦茶(月1万円)やデトックス水(1本5000円)にたどりついたケースもある。
そして、最近口コミで患者が殺到しているのが、喉の奥(上咽頭)を綿棒で刺激するだけで、なぜか少女たちの症状が改善したという「Bスポット療法」だ。簡易な治療法だが、遠方からの患者は入院させて様子を見るらしい。先日行われた学会発表の演題は「内科疾患における上咽頭処置の重要性:今、またブレイクスルーの予感」。Bスポットという名称も学会演題も週刊誌を彷彿させる。
ワクチンをめぐり、こうした人々が登場するのは日本に限ったことではない。医学専門誌「Vaccine」に掲載された分析によれば、反ワクチンを謳うウェブサイトには、ホメオパシーなど代替医療の紹介や広告、宗教的・倫理的に許されないといった言説、データや統計のない主張などが溢れている。
注射で人工的に免疫を付与するワクチンは毒だといった自然志向、ワクチンを受けない権利や受けさせない権利といった市民権絡みの話もよくある。ワクチンを勧める国や専門家、接種する医師が金や権力と結びついて儲けているといった陰謀論は必ずと言っていいほど出てくる。
また、言うまでもなく医療訴訟は弁護士にとっては大きなビジネスチャンスだ。中でも薬害訴訟は国やメーカーを相手に巨額のリターンが見込まれるため、アメリカでは薬害訴訟に特化した弁護士事務所もあるほどである。
しかし、海外には日本のように、いったん導入された子宮頸がんワクチンの接種が、事実上滞ってしまっている国はどこにもない。国際学会も世界保健機関(WHO)もこのワクチンが安全で有用であるとの結論を覆していない。
では、日本だけがなぜ接種を停止し、専門家が再度検討を行い結論を出した後でも再開できていないという事態がおきているのだろうか。
後篇ではワクチンをめぐる日本の特殊性について考え、苦しむ少女たちに本当の意味で向き合うとはどういうことなのかについても改めて考えてみたい。
⇒後篇につづく
〔修正履歴〕5ページ目、「同教団は今年8月30日、ワクチン接種後の患者向けにホメオパシー講演会を主催した」との記述に誤りがありましたため、次のとおり修正いたしました。「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会神奈川県支部は、今年8月30日、日本ホメオパシー医学協会から講師を招いて勉強会を行っている」謹んでお詫び申し上げます。(10月23日、Wedge編集部)
〔修正履歴〕5ページ目、「世界日報は統一教会の広報紙である」との記述に誤りがありましたので修正いたしました。謹んでお詫び申し上げます。(10月30日、Wedge編集部)
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