今後、同様の改ざんが発見された場合は?
では、今後の調査で同じようなデータの改ざんが見つかったような場合、新たに問題が見つかったマンションの購入者は、販売業者に対して、今回と同様に、建物の建て替えや補償金の支払いを求めることができるのでしょうか。
実は、話はそう単純ではありません。
販売会社に対して瑕疵担保責任を追及する場合、「隠れた瑕疵」が存在し、「瑕疵により売買の目的が達成できなくなった」といえることが必要です。
今回のケースでは、杭打ちデータの改ざんにより地盤に届くはずの杭が届いておらず、実際にマンションが傾いてしまいました。
実際にマンションが傾き、居住性が失われたり、安全上の問題が表面化したような場合には、「隠れた瑕疵」が認められる可能性が高いでしょう。
一方で、仮に杭打ちデータの改ざんがあったとしても、結果的に杭が地盤に届いており、居住性にも安全性にも問題がないような場合、建設当時のデータの改ざんが「隠れた瑕疵」にあたるとしても、「売買の目的が達成できなくなったといえる程度の瑕疵ではない」と判断される可能性があります。その場合には、買主としては気持ちが悪いかもしれませんが、瑕疵担保責任の対象にならない場合が多いでしょう。
では、データの改ざんにより杭が地盤に届いていないものの、現時点では、マンションが傾いていないような場合はどうでしょうか。そのような場合も、建築基準法上求められる構造耐力基準を満たしておらず、安全性に問題がありと判断されるような場合には、「隠れた瑕疵」があり、かつ、「売買の目的が達成できなくなった」と判断される可能性が高いでしょう。
もっとも、地盤に届いていない杭があったとしても全体の一部に過ぎず、「傾きが生じる可能性が低い」、あるいは「安全性に与える影響が小さい」と判断される場合もあるかもしれません。そのような場合にまで「隠れた瑕疵」により「売買の目的が達成できなくなった」と判断されるのかどうか、やや疑問があります。
マンションの建て替えには高いハードルも
また、今回のケースでは販売業者がマンションの建て替えを提案していますが、マンションの建て替えが実現するには、高いハードルがあります。
分譲マンションは通常、居室単位で販売しますので、居室ごとに異なる所有者(区分所有者)が存在することになります。全体からみると、マンションは多数の所有権の集合体のような形になっています。このように多数の区分所有者が存在する集合住宅などの管理や処分について定めた法律が「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)です。
そして、区分所有法によると、マンションの取り壊しと建て替えをするには原則として、区分所有者の頭数と議決権(区分所有者の専有面積割合に応じた議決権)の両方で、いずれも5分の4以上の同意が必要です。
マンションの所有者の中には「多少傾いていても住み続けたい」と考える人もいるかも知れません。まして、現実に傾きが生じていない場合には、建替えに反対する住民の割合が増えることも考えられます。生活に支障が生じる程度の傾きが生じているような場合でもない限り、現実には「5分の4の同意」を取り付けるのは難しい側面があります。
横浜市の件では、いまのところ、販売業者が比較的早い段階での補償案を提示している印象があります。しかしながら、今後、杭打ちデータの改ざんがどの程度まで広がるのかによっては、販売業者や建設業者には、より難しい判断を求められる可能性があります。
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