続々と海外進出を果たす日本アニメ
NBCが『AstroBoy』というアニメ放送を開始するニュースは、やがて日本にも伝わった。当時、NBCと契約していたフジテレビがそのニュースを聞きつけ、すかさず『AstroBoy』の買い付けに飛ぶ。しかし、その内容を見て愕然とした。それは、紛れもなくフジテレビが放映権を所有する『鉄腕アトム』だったからだ。藤田氏は当時のフジテレビの編成部長に呼び出され、ひどく叱られたという。だが、この一件で日本のテレビ局も目覚めたのだろう。
『鉄腕アトム』がアメリカで売れたことがわかると、『鉄人28号』があとに続く。以降、続々と日本のアニメーションは海外進出を果たしていく。藤田氏自身も『鉄腕アトム』の2年後、再びアメリカで『ジャングル大帝』を売ることに成功している。
なぜ、これほど次々と先駆的なことをやってこれたのだろうか。藤田氏に尋ねた。
「大事なのは、閃くこと。そして閃きを感動に変えること。その感動を人に与えること──」
そして、そのための「苦労を厭わないこと」が何よりも大事だという。
「誰もやっていないことを始める時は、とにかく手間がかかる。その手間を惜しんだりすれば、絶対にうまくいかない」
「出会い」と「素直」
本日、藤田氏が執筆された書籍が刊行された。これを読めば、日本のテレビ史に名を刻む錚々たる人々と、骨身を惜しまず生身で交流してきた藤田氏の人生を窺い知ることができる。
この本の一節に、次のような言葉がある。
「僕が好きな言葉は、出会いと素直。すべては出会いから始まり、素直な人間が最後には勝利する」
感動という言葉が素直に受け止められにくい時代になった。だが、胸に手を当て、そこに鬱屈としたものを感じるのであれば、この藤田氏の言葉を胸に刻むことをお勧めしたい。
1929年愛媛県新居浜市生まれ。1953年、早稲田大学商学部卒業後、ラジオテレビセンター入社。1960年、総合広告会社株式会社ビデオプロモーション設立、社長に就任。2000年、会長に就任、2009年、取締役名誉会長に就任、現在に至る。アニメ「鉄腕アトム」のアメリカ輸出、深夜番組の先駈けとなる「11PM」、スポーツ番組で初の衛星生中継となる「マスターズ」、筑紫哲也の「こちらデスク」、バチカンの「システィーナ礼拝堂修復特別番組」、ザルツブルクの「モーツァルト住家復元特別番組」、「世界遺産」、「100人の20世紀」、「美の巨人たち」、「食彩の王国」、「写真家たちの日本紀行」など、数多くの名番組に携わる。