2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2016年1月1日

 JT(日本たばこ産業)が海外企業の買収をテコに事業規模を拡大、たばこメーカーとして世界ナンバーワンを目指している。1980年代から海外の買収に関わり、いくつもの企業買収と統合を成功させてきた新貝康司副社長にインタビューし、M&A(企業買収・合併)の秘訣を聞いた。

「選択と集中」

 M&Aの調査会社レコフの発表によると、2015年1月から11月8日までで、日本企業による海外企業の買収金額が初めて10兆円の大台を超えた。人口減少で国内市場が縮小する中で、主要企業が海外に活路を見いだそうと、海外の企業を買収して事業拡大に取り組んでいる。

 JTはこうした潮流を先取りし、これまで米RJRナビスコ社の米国外たばこ事業、英ギャラハー社という2度の大型買収をはじめ、10件以上のM&Aに取り組み、事業拡大に成功してきた。この結果、売上規模では米フィリップモリス・インターナショナル(PMI)、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)に次いで世界第3位の地位を確固たるものとした。14年は連結ベースの営業利益のうち6割以上を海外たばこ事業で稼ぎ出している。

 海外だけではなく国内の買収にも積極的だ。08年1月には冷凍食品大手の加ト吉を約1000億円で買収、その以前には旭化成の食品事業、鳥居薬品などを買収、食品、医薬品分野の事業基盤を強化してきた。買収の一方で、既存事業からの撤退も実施している。15年7月には飲料自販機オペレーター事業などをサントリー食品インターナショナルに1500億円で売却、同年9月には「Roots」「桃の天然水」などのブランドを持っていた飲料の製造販売事業から撤退、経営資源の「選択と集中」を断行してきている。

任せるところは任せる

Q たばこ事業の今後をどう見るか。また、買収により世界ナンバーワンを狙うのか

A 伝統的なシガレットビジネスについては、先進国では減少傾向にあるものの発展途上の新興市場では成長余地が大きい。今後ともJTのプレゼンスが小さい新興市場への地理的拡大を進めていきたい。

新貝康司(しんがい・やすし)1980年京都大学電子工学課程修士課程修了後に日本専売公社(現JT)に入社、財務企画部長、財務責任者(CFO)などを 経て2006年から11年まで海外たばこ事業の世界本社であるJTIの副社長兼副CEO。2011年6月からJT代表取締役副社長。59歳。大阪府生ま れ。15年6月に『JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書』(日経BP社)を出版した。

 シガレット以外で新たに成立している商品、例えば電子たばこなどのカテゴリーを強化していきたい。電子たばこ市場は世界で50億ドルと推定され、特に最大市場の米国では14年から18年までの間に年率40%伸長するとの外部調査がある。引き続き市場動向を注視していく。

 また、電子たばこではないが、たばこ葉を電気で加熱して味・香りを楽しむ「プルーム」という製品をオンラインなどで販売しており、市場開拓に向けて期待を込めてトライしている。

 いつまでに世界で首位になるという目標を定めているわけではないが、利益をはじめ商品の革新力、人財力など、有形、無形の要素を含めてナンバーワン企業を目指したいと考えているし、常々社員にもそう伝えている。上位メーカーに短期間で追いつけ、追い越せと号令をかけているわけではない。

Q 買収するに当たってのJT本社と、海外の買収を統括するJTI(ジュネーブ、Japan Tobacco International)との関係は

A 一般的に欧米グローバル企業は、明確な戦略フレームワークを作成し、その実現のためのオペレーションは現地に委ねるスタイルを採用している。一方で日本のグローバル企業は、個々の国のオペレーションに対して、「カイゼン」といったベストプラクティスの共有に軸足をおく傾向にある。私は12年間M&Aの仕事をしてきたが、グローバル化を進める中で、日本流ベストプラクティスを押し付けるのではなく、欧米流・日本流の長所をブレンドすることが重要だと考えてきた。

 その結果たどりついたのが、買収企業との統合を進める中で、「こういう例はうまくいった」という事例を紹介して、それをJTIが自発的・主体的に採用してもらう手法だ。JT本社が適切にガバナンスしながら、現地に任せるところは任せる。そうしないと現地は不満と言い訳だらけになる。


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