Q JT本社とJTIとの意思疎通を良くするために具体的にどういうことをしているか
A 意思決定の見える化をしている。JTIの役員は世界中を飛び回っているため定期的に経営会議などは開催できないが、その代り、すべての意思決定は原則として「電子意思決定システム」で実施している。このシステムでは、JTのたばこ事業本部長がその気になれば、JTIの意思決定を全て端末上で閲覧することができる。意思決定に際しては明確な責任権限規程が定められており、かつJTI側にとっては「見られている」ことで透明性の高い良質な意思決定が実現できる。
また経営情報についても見える化を推進している。例えば、主要マーケットでの売上数量実績を毎週、対前年比、対計画比でどう進捗しているかをブランド単位で確認することができる。こうした情報共有を前提にして年に2回、JTとJTIは経営計画について議論する。
買収を手掛けた日本の企業からは、「買収した会社から情報が取れない」という声をよく聞くが、まずは買収完了時にこのような意思決定や情報共有ルールを約束事として決めておくことが肝要だ。
買収会社に配慮
Q 買収が成功するかどうかは被買収企業をいかに統合するかだといわれるが、統合する際の基本的な方針は
A 買収には3つのステージがある。結婚に例えれば、買収の発表は婚約、買収の成立が結婚式、買収後の統合が結婚生活に相当する。買収は統合まで成功しないと、買収が成功したとは言えない。統合が成功するためには3つのことが重要だ。
まず1つ目は、買収、統合にかかわる社員に対して、当事者意識を鼓舞し続けることだ。統合計画策定をコンサルタント会社などに任せると、社員が策定にかかわっていないため、計画通りに事が運ばす、困難な状況に遭遇するたびに言い訳の材料にされることが多い。社員は日々の業務もこなしながら統合作業にも従事することで、当事者意識が生まれてくる。
2つ目は、人的な側面を大切にしなければならないという点だ。買収側企業は、ややもすれば被買収企業に上から目線で対応しがちで、RJRインターナショナルの買収の際、まさにそうした事態が起きた。この教訓を生かし、ギャラハーの時は買収完了前にギャラハーの幹部約50人と個別面談して、じっくり話し合う機会を設けた。買収側、被買収側が将来の不安を抱えたまま日々のビジネスを行うと、下手をすれば競争力が落ちて他社の「草刈り場」にはなりかねない。買収側は謙虚な姿勢で、被買収側の心の機微をくみ取ることが重要だ。JTは「進駐軍」にはならない。
3つ目は常に顧客や事業から目を離さないことだ。ギャラハーは株主への還元を重視するあまり高配当を行ったが、商品への投資を怠ったため、商品の革新力を失う結果になった。JTには、顧客をはじめ株主、従業員、社会の4者の満足度を高めていくとする経営理念「4Sモデル」があるが、それを踏まえ、いま市場の中でJTがどのような状況にあるかを、日頃の仕事の中で考えていなければならない。