2024年4月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月24日

パリ同時多発テロでISが払った代償とは

 ISを撃破するためには地上軍の派遣が最も有効であることは明らかです。ISの「首都」ラッカを奪還すれば、軍事的のみならず、ISの権威の失墜で、ISに計り知れない打撃を与えるでしょう。しかし、現実問題として、仏、他の欧州諸国、米国が地上軍の派遣に踏み切る可能性は低いです。

 今回のパリの同時多発テロは、ISにとりプロパガンダ上大きな勝利でした。これでISを目指す若者がさらに増えるでしょう。しかしISが払った代価も大きいと言うべきです。

 第一にISに対する空爆が一段と強化されます。今回のパリ同時多発テロをきっかけとして、フランスが従来の3倍の空爆を行い、ロシアも空爆の対象をISに移すなど、空爆が飛躍的に強化されれば、ISの軍事力、国力は消耗せざるを得ません。さらに米国がISの製油所を攻撃したことは重要で、石油の販売がISの主要財源であることから、ISの石油関連施設への攻撃が継続されれば、ISの財政基盤は大きく揺らぐことになります。

 第二は欧米諸国によるテロ対策の強化です。ISは、今回のパリ同時多発テロのように、遠隔地でのテロ攻撃の具体的実施は現場の工作員に任せるといいます。今後欧米諸国による監視体制や情報収集の強化、情報の共有、容疑者の捜索と逮捕などが進められれば、ISの工作員の活動が制約され、テロの実施はより困難となるでしょう。

 第三はISの脅威が中東地域に限定されなくなったので、ISへの対決姿勢が世界的に広まったことです。それが直接ISを弱体化させることにはならないにせよ、これだけISに対する危機感が高まれば、ISに対する圧力となります。

 シリア内戦の休戦に向けての外交活動の活発化もISに不利な動きです。ロシアはシリアの休戦に以前より前向きになったと見られますが、これはISによるロシアの航空機撃墜を契機に、ISへの対応により優先度を置く必要に迫られたためと思われます。仮に休戦が成立し、さらにシリアの新しい政治体制への移行が議論されるようになれば、今まで内戦に向けられていた勢力がISに向けられることになり、シリアでのISの支配が大きく後退する可能性が出て来ます。

 このようにISが遠隔地でのテロ活動を活発化させる一方、IS本体の勢力が次第に消耗していく傾向が強まるでしょうが、地上軍派遣という決定打が期待できないとすれば、ISの攻略には時間がかかることを覚悟する必要があります。
    
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