エコノミスト誌11月21-27日号掲載の解説記事が、パリの同時多発テロ、ロシア航空機撃墜、ベイルートの自爆テロと、IS(イスラム国)のテロが相次いだのは、本拠地の中東で形勢が不利になってきたISが遠隔地で反撃に出たということかもしれないが、ISを倒すのは今も容易ではない、と分析しています。
形勢不利でもしぶといIS
すなわち、ISの戦闘員は推定3~10万人、よく訓練され、戦闘能力は高い。4月のティクリート奪還では、ISの戦闘員千人に対し、イラク側は3万の部隊とシーア派民兵を要した。自爆テロを使えることも有利だ。しかし、ISは空軍力でははるかに劣る。去年始まった有志連合の空爆でこれまでに2万の戦闘員を失い、新兵の補充もトルコ国境の警備強化で難しくなってきたと言われる。そのため、クルド部隊がイラクのシンジャールを制圧、シリア政府軍もアレッポ近くの空軍基地を奪還するなど、最近、ISは形勢が不利になってきた。航空機爆破を受けて、今後はロシアもISを優先的に攻撃するかもしれない。
しかし、ISはしぶとい。ISの支配領域はシリアの中では相対的に安全で、食糧は安価、ある種の司法があり、奪った油田により経済も機能している。ISは、貧困者には絶対的服従と引き換えに施しを与え、バグダディへの個人崇拝を奨励、クーデター防止のために互いに猜疑心を抱く複数の治安組織を擁している。
パリ襲撃を受けて、おそらく今後はISの領土的基盤を破壊する軍事行動がとられ、ISの支配領域は縮小しよう。ISがいくら頑張っても、西側が動員できる軍事力には敵わない。既にフランスは空爆を拡大、ロシアも出撃回数の倍増を表明、米国はISの製油所を攻撃し、クルドや他のシリア反政府勢力への武器や物資の供給も増やした。
しかし、ラッカやモスルなどの大都市の奪還には地上兵力の大幅増員が必要で、そうした地上戦は、外交・軍事面のみならず、さらに多くの難民を生じさせるなど人道面でもコストが高くなる。西側もロシアも地上部隊の派遣に乗り気ではない。イラク軍は手を広げすぎているだけでなく、スンニ派から強い不信感を抱かれている。シリア政府軍は疲弊、しかも支えているのは戦争犯罪者だ。イラン、トルコ、クルド、サウジは互いに相反する目標や政策を追求、しかも、IS撲滅はいずれにとっても最重要事項ではない。
「カリフ国」を破壊すれば、ISの魅力の源である「無敵のオーラ」は消えよう。しかし、スンニ派の被害者意識、外国嫌悪のワッハーブ主義による洗脳、悲惨な無法状態、西側に住むイスラムの若者のヒロイズム願望、残虐な圧政政権が生む怒り、といったISを生んだ有害な土壌が存在する限り、ISの後続勢力も、ISのイデオロギーも存続するだろう。アルジェリアからパキスタンまで、いくつもの破綻国家で溜まり、膿んだこれらの要素は、軍事力だけで取り除くことはできない、と指摘しています。
出典:‘Fighting near and far’(Economist, November 21-27, 2015)
http://www.economist.com/news/briefing/21678847-islamic-state-may-be-lashing-out-abroad-because-it-has-been-weakened-nearer-home-it-will
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