初期の政治的判断が災いして、今となってはもはやタブーになっていることや、「囚われた固定観念」が依然として存在していることは事実である。それらを打破しなければ現実的な選択肢を検討することができないことは、関係者の大半が有している共通認識ではないだろうか。タブーや固定観念を意図的に表に晒すことによって、今こそ福島の真の復興に何が必要なのか、比較衡量すべき国民負担をどのように考えるべきかについて述べてみたい。
除染目標の見直し
事故直後の放射線に対する不安の中、何より安全サイドに立った目標が掲げられ、「とにかく徹底して除染をやる」ことが住民の安心をもたらした効果は大きかったし、また中長期的にも、帰還して生活を再建することの大前提として除染が今でも重要視されていることは当然だろう。問題は、除染をどこまでやればいいのかだ。
放射線リスクについて、一部まだ反原発運動の一環として「煽る」ための情報を流している人たちはいるが、むしろ福島の地元では相当理解が進んできているのが実情だ。放射線リスクを避けるには、除染という方法以外にも高線量の場所に近づかない、屋外にいる時間に注意するなど個々人の行動パターンも大きい。
ところが、いまだに「年間1mSv以下になるまで除染を行うべし」との政治的方針が残ったままになっており、これを正面から議論することは一つのタブーになっている。
当初、除染の基本方針を決めたのは、原災本部の11年8月決定「除染に関する緊急実施基本方針」だ。空間線量年間20mSv以上は国が、それ以下は市町村が実施すると役割分担するとともに、長期的目標として「追加被ばく線量を年間1mSvとする」としたうえで、年間1~20mSvのうち比較的高線量の所を対象に面的除染が必要との考え方が提示された。これをベースに、閣議決定で除染費用として2200億円の予備費が計上されたが、当初の面的除染の対象は空間線量が年間5mSv以上の地域とされていたのだ。
これは、当時の政策担当者間において、次のような理由から除染作業は、プライオリティをつけて進めるべきだと判断されていたからである。(1)基準を年間5mSvに設定するかそれ未満に設定するかで、放射線防護上大きな差があるとは考えられていなかった。 (2)年間5mSv未満では面的除染より、ホットスポットの除染に集中し、日々の生活で無用な被ばくをしないよう行動に気をつける方が意味があると考えられていた。 (3)年間5mSv未満の地域を対象に含めると費用が激増する。
市町村担当者向けの説明会でも、市町村が実施する面的除染に対する国の支援の基準は年間5mSvとなることが示されていた(11年9月28日)。