打開困難な経済状況で鍵握る“国民の忍耐力”
ロシアは、2016年は、国内の備蓄を切り崩すことで、経済はなんとか維持できると思われるが、経済を回復させることは極めて難しそうだ。ウクライナ危機発生前の2013年の段階でも、経済成長率が1.3%でありながら、原油価格は常に1バレルあたり100ドルを大きく上回っていたことを考えると、石油価格だけでロシア経済の低迷を打開することは難しそうだ。
特に深刻なのは、投資が引き続き減少していることだろう。最近、財政支出削減が行われた結果、非軍事部門の一連の投資削減が行われ、特に産業建設や住宅建設の投資が大きな打撃を受けている。2016年には、財政支出は実質ベースで3-5%減少すると予測されているが、全企業利益の2/3を生み出しているのは原材料を輸出する企業であるにもかかわらず、それら企業は国内投資に暗い展望を持っていることから、利益を投資ではなく配当に向けるであろうことが想像されている。加えて、対露制裁が継続する中、海外からの投資は、特に新規の案件については当然期待できない(「モスクワ・タイムズ」2015年12月10日)。
このような状態で、ロシアの安定の鍵を握るのは国民の忍耐力だろう。ロシア国民は、通貨ルーブルが約50%下落し、国内の消費水準も約10%低下している状況の中で、確実に経済の悪化を感じてはいる。
高いプーチン支持率の裏で強まる反欧米志向
しかし、少なくとも今は、怒りの矛先をプーチン政権ではなく、欧米に振り向けることで、むしろプーチンへの支持を弱めることなく、欧米への対抗心で一体感を深めている。現在は、欧米がロシアを叩けば叩くほど、国民が反欧米志向を強め、プーチン支持の気持ちを強めている状況だ。
プーチンに対する支持率は、2014年のクリミア編入後、85%前後と一貫して極めて高い。そして、この支持率は、ロシア経済の悪化に対する国民の忍耐力の大きな源となる。ロシアの有識者がこぞって今後数年のプーチンに対する支持の盤石さを力説する現状においては、来年については国民の忍耐力は保たれると思われる。つまり、経済状況は引き続き悪いが、プーチン支持率は高いままで、社会の安定も保たれると考えられる。
しかし、ルーブルの貨幣価値の低下などで海外旅行好きのロシア人の海外旅行がかなり制限されている中、制裁下にあってもロシア人に人気があったトルコやエジプトへの旅行についても、ロシア機撃墜事件での対土制裁の一貫におけるトルコ旅行の自粛要請、飛行機爆破テロ以後のエジプトへの渡航自粛勧告などで、ロシア人のフラストレーションはますます高まると思われる。そのため、プーチンが少しでも戦術を誤ると、大きな社会不安が襲ってくる可能性は否めない。
次に、ウクライナ問題であるが、こちらも当面膠着状態が続きそうだ。ウクライナ東部の問題は引き続きくすぶると思われ、ウクライナ東部の選挙もしばらくは実現しないと考えられる。
その一方で、ウクライナの親欧米路線の深化やプーチンが嫌うサアカシュヴィリ元ジョージア大統領をウクライナ・オデッサの知事に据えていること、またクリミアに対して経済封鎖や送電停止などを行っていることなどにロシアは反感を強めている。
ロシアはただでさえ経済状態が悪い中、シリアでの戦争に国の軍事資源の多くを投入せざるを得なくなっているため、ウクライナへの軍事介入を強める可能性はかなり低いと思われる。このため、ウクライナの不安定な現状を維持することを重視しつつも、国際社会からの制裁解除を模索していくと考えられる。だが、上述のように、欧米は対露制裁を継続しており、特に米国は制裁のレベルをさらに上げていることから、ロシアもウクライナ問題での対欧米姿勢を軟化させることが難しくなっており、交渉も困難となることが危惧される。