2024年11月24日(日)

解体 ロシア外交

2015年12月31日

シリア空爆では被害受けつつ利益も

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 第三にシリア問題である。ロシアは2014年夏頃から、国連を含む国際的な場で対ISIS(イスラム国)大連合を呼びかけてきた。だが、その呼びかけへの欧米からのポジティブな反応を得られないまま、9月末からシリア空爆に着手し始めた。シリア空爆のインセンティブとしては以下の通り、幾つかのファクターがある。

 第一に、アサド政権を守るためである。シリアにはロシアの旧ソ連諸国以外で唯一の海外軍事基地があり、盟友アサドを守ることはロシアの利益に直結する。さらに、アサド本人のみならず、イランやイラクもロシアに介入を要請した。

 第二に、ウクライナ問題から世界の目をそらすとともに、シリア問題解決で世界に貢献し、制裁を解いてもらうとともに、あわよくばクリミア併合も認めて欲しいという、ウクライナ問題とのトレードオフである。

 第三に、ISISにロシア人(特に、ムスリム系)が多く参加している現状に鑑み、それらがテロリストとして養成され、ロシアに戻ってテロを起こすことを警戒しているということがある。

 ロシアのシリア空爆はかなりの効果をもたらしていると言われる一方、欧米はロシアが反アサド派を攻撃していると激しく批判している。また、11月にはISISによるエジプト・シナイ半島上空でのロシア旅客機爆破事件、また、トルコによるロシア軍機の撃墜(トルコ側は領空侵犯と注意喚起の無視を主張する一方、ロシアはそれらを否定)という事件も起きるなど、ロシアも甚大な被害を受けている。

2016年の展望は?

 上述のように、2015年はロシアにとって大変な年であったが、これらの問題は2016年においてもロシアの問題であり続けると考える。

 まず、石油価格は当面、停滞が予想されており、またウクライナ問題が解決しない限り、対露制裁も継続されると考えられる。加えて、近年経済関係を強めてきた中国経済も悪化してきた上に、世界全体の経済状況も低迷していることから、ロシアの2016年の経済展望はかなり暗いと思われる。

 特に石油価格の低迷はロシア首脳にとって極めて頭の痛い問題であろう。ロシア経済の低迷については、1月の拙稿「ロシアの経済危機はウクライナ問題がなくとも予想されていた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4626)」 で述べた通りだが、石油価格の下落は、ロシアのみならず他の資源保有国の経済に打撃を与えていることもご理解いただきたい。

 たとえば、カザフスタンでは、通貨テンゲが2015年8月19日に1年半前に実施した切り下げ以来の大幅下落を記録し(なお、この下落については、石油価格の問題よりも、むしろ中国の人民元下落の余波が大きく響いたという見方もできる)、9月には完全変動相場制に移行していたが、12月18日には、1ドル=345.5テンゲと、史上最安値を更新してしまった。変動相場制への移行前には、1ドルが182〜188テンゲあたりを推移していた事を考えれば、その価値は約半分近くに下落してしまった事になる。

 また、アゼルバイジャンも12月21日にペッグ制を採用してきた通貨マナトの変動相場制に移行させることを決定した。同日、マナトの対ドルレートは、1ドル=1.55マナトとなり、前週末の終値と比較すると約32%の下落と大きな動きを見せた。なお、2015年の初頭のマナトの相場と比較すると、対ドル下落率は約5割であった。このような通貨の下落について、アゼルバイジャン側は、石油価格の低迷に加え、ロシアなど経済関係が強い国通貨下落の余波を受けていることをその理由だと説明している。ちなみに、今年の2月まではアゼルバイジャンはマナトについて、ドルとの固定相場制をとっていたが、通貨バスケット制に移行したばかりであった。アゼルバイジャン中銀は、買い支えに躍起になってきたが、米連邦準備理事会(FRB)の利上げで、買い支えももはや無理であると判断したと考えられる。

 このように旧ソ連の資源保有国の経済は軒並み悪化している。とはいえ、前述の拙稿でも述べたように、2013年くらいから経済の低迷は予測されていたし、過去8年に渡り、基本的に経済パフォーマンスは停滞してきた。


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