2024年11月22日(金)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年1月2日

 他方、共和党候補は、上で述べたクリントン候補の女性に焦点を当てた選挙戦略をカードゲームに喩えて、「ジェンダーのカード」を切っていると強く批判しています。彼らは、クリントン候補が女性の立場を利用して得点を稼いでいるのはずるいと言いたいのです。これに対してクリントン候補は、「カードが富裕層に有利になるように切られている」と反論した上で、中間層や女性が不利な状況から脱出できるようにカードを切りなおす必要があると主張しています。そこで、同候補は共和党候補に「私をカードゲームに入れなさい」と強気の発言をして、支持者から拍手喝采を浴びているのです。

クリントン候補のトランプ対策

 では、クリントン候補は、女性蔑視の発言を繰り返しながらも、共和党候補者指名争いにおいて支持率トップを走る不動産王ドナルド・トランプ候補に対して、どのような対策をとっているのでしょうか。クリントン候補はトランプ候補の女性を見下した発言を好機と捉え、彼は女性の敵であるという認識を女性有権者に深めています。さらに、トランプ候補の女性蔑視の発言を同候補個人の問題から、共和党全体のそれに拡大させて、「共和党には女性蔑視の文化がある」という認識を、特に女性有権者を対象に強めているのです。そうすることによって、ここでもクリントン候補は前で述べた「自分が女性のために戦う候補者です」というメッセージを浸透させようとしているのです。

ヒラリー陣営の看板 地域マネジャー(有給のスタッフ)、ボランティアの退役軍人(1991年湾岸戦争)、若者及び筆者の4人のチームで500個のクリントン陣営の看板を作った(@ニューハンプシャー州マンチェスターセントアンセム大学周辺の駐車場)

 次に、女性票におけるクリントン候補の課題について述べましょう。遊説先の演説で同候補は、「私は米国史上初のおばあちゃんの大統領になるの」とユーモアを交えて語ります。その意図は、オバマ大統領が支持を得られなかった白人女性における高齢者の票の獲得にあります。その点では同大統領よりも支持拡大が期待できるように思えますが、クリントン候補の支持層は既婚女性の高齢者が多く、未婚女性を引き付けていません。

 08年及び12年米大統領選挙でオバマ陣営に加わった筆者は、即座に両陣営における支持層の年齢の相違に気づきました。未婚女性の掘り起しが、クリントン陣営の最重要課題です。

 第2に、ヒスパニック系です。12年米大統領選挙で共和党候補ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事は、本選で僅か27%のヒスパニック票しか獲得できませんでした。選挙後、ラインス・プリーバス共和党全国委員長は、敗因の1つにヒスパニック系の支持を得ることができなかった点を挙げ、16年米大統領選挙における同系の支持獲得の重要性を強調したのです。キューバ系のマルコ・ルビオ上院議員(共和党・フロリダ州)及びテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)が共和党候補指名争いを勝ち抜くと、クリントン候補にとって、西部コロラド州やネバダ州といったヒスパニック系の割合が高い州において、同系の票を確保する必要性が一段と高まってくるというのが一般的な見方です。

 第3に、アフリカ系です。前回の米大統領選挙では、投票資格のあるアフリカ系の66%が投票に出向いています。この数字は、白人の64.1%を上回りました。クリントン候補は、オバマ大統領に投票をしたアフリカ系の有権者を、今回の選挙においても投票所に動員できるかという課題を抱えています。

 第4に、若者です。周知の通り、08年の米大統領選挙において変革を訴えたオバマ候補(当時)は若者を熱狂的にし、彼らの政治参加を高めました。16年民主党候補者指名争いでは若者は、クリントン候補のライバルであるバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)を強く支持しています。同候補が提案した公立大学の授業料無償化や、プロンプターを使わずに本音を語るコミュニケーションスタイルが、若者に火を付けました。

クリントン陣営の運動員 第3回民主党テレビ討論会の会場となったセントアンセルム大学のキャンパスでクリントン支持を訴える運動員。有給のスタッフとボランティアの草の根運動員が協力して作った青い風船のアーチが一際目立った(筆者撮影@ニューハンプシャー州マンチェスターセントアンセム大学)

 クリントン陣営にボランティアとして参加している若者は、インターンの学生もいますが、ほとんどが有給のスタッフです。クリントン候補に対して若者がエキサイティングしていないエピソードを紹介してみましょう。

 クリントン選対のオーガナイザーの一人が、ある日アイオワ州デモインの国際空港の傍にあるコーヒーショップで戸別訪問に関するミーティングを開いたのです。参加したボランティアは、中年のアフリカ系女性、インターンのアジア系男子学生、白人の女子高校生と筆者の合計4名でした。筆者は、戸別訪問に興味を持っている女子高校生に質問をしてみました。

 「何歳ですか」

 「16歳です」

 女子高校生がこう答えたのです。彼女は投票権のある18歳に達していませんでした。

 「米国では投票権は18歳からですよね。どうして16歳なのに戸別訪問に参加するのですか」

 続けて質問をすると、高校生は次のように語ったのです。

 「私は18歳になったら投票に行くので、今、その準備をしているのです」

 筆者はこの高校生の姿勢に感銘を受けました。ただ、彼女に少し悲しげな表情がくもっているのに気づいたのです。そこで、さらに質問をしてみると、その理由を明かしてくれました。

 「高校の仲間は、私以外みんなサンダース陣営に行ってしまったのです」

 USAトゥディとサフォード大学による共同世論調査(2015年12月2日-同月6日実施)によりますと、クリントン候補の好感度が最も高い年齢層は、65歳から74歳までの高齢者であるのに対し、サンダース上院議員のそれは、18歳から34歳までの若者です。若者の不参加は、クリントン陣営の懸念材料になっており、同陣営ではその対策に乗り出しています。たとえば、ニューハンプシャー州コンコードのクリントン陣営では、地元のコンコード高校の女子高校生(1年生)がリクルーターになり、キャンパスで戸別訪問に参加するボランティアを募っています。筆者も戸別訪問の際、同高校に通う5人の高校生をリクルートしました。


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