2024年12月2日(月)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2015年12月12日

 今回のテーマは、「トランプ候補のコミュニケーションスタイルとモチベーションの高め方」です。共和党候補者指名争いで単独首位を走るドナルド・トランプ候補のコミュニケーションと、モチベーション向上の仕方には特徴があります。本稿では、まず同候補の本当のメッセージを明らかにし、次にコミュニケーションスタイルとモチベーションの高め方について分析します。そのうえで、トランプ攻略法を考え、今後の展開について触れてみます。

12月7日サウスカロライナ州マウントプレザントで演説したトランプ氏(Getty Images)

本当のメッセージ

 トランプ候補が有権者に発信しているメッセージを、氷山のモデルを使って説明しましょう(図表1)。同候補は集会で、「再びアメリカを偉大な国にする」というメッセージを支持者に必ず送ります。アメリカとメキシコとの国境に壁を作り不法移民を入国させない、壁の費用はメキシコ政府に支払わせる、国内の約1100万人の不法移民を国外に追放する、と主張しています。その際、不法移民に犯罪者、強姦者及び麻薬の売買人のレッテルを張り、アメリカを低落させたのは彼らだというメッセージを発信しているのです。しかも、不法移民は職を奪い、愛国心のある退役軍人よりも好い待遇を受けていると持論を展開するのです。

 不法移民に加えて、トランプ候補はシリア難民に対しても強硬な発言を繰り返します。宗教を持ち出してイスラム教徒のみならず、キリスト教徒のシリア難民までも受け入れ反対の立場をとっているのです。パリ同時テロ事件を好機と見た同候補は、良識のあるイスラム教徒も含めてテロリストとして一緒くたに扱い、彼らに対する警戒を怠るなと注意を喚起して、警戒心を煽っているのです。

 宗教と休日に関して、トランプ候補は集会で支持者にこう訴えます。

 「メリー・クリスマスと言おう」

 周知の通り、アメリカではキリスト教以外の宗教を持つ人々に配慮して、「ハッピー・ホリデー」と言います。しかし、同候補はそれを否定し、再び「メリー・クリスマス」に戻そうと支持者に呼びかけているのです。

 トランプ陣営のスローガンである「再びアメリカを偉大な国にする」は、氷山の表面に現れたメッセージに過ぎません。深層部を観察すると、同陣営の標的となっている不法移民及びシリア難民やイスラム教徒に対するステレオタイプ(固定観念)並びに偏見が存在し、「アメリカ国内から人種や宗教の多様性を排除しよう」という隠されたメッセージが見えてきます。実はトランプ候補が実際に発信しているメッセージは、「再び多様性がなかった偉大な国にする」です。さらに一歩踏み込んで核心を突いてしまえば、「再び白人が優勢を保っていた偉大な国にする」と言えるでしょう。筆者は、これがトランプ候補の本当のメッセージだと捉えています。

 米CNNテレビの世論調査(2015年11月27日―12月1日実施)によれば、学歴が高卒以下で、登録した共和党支持者及び同党に傾いている無党派層の支持率は、トランプ候補が46%で、2位のテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)の12%を大きく引き離しています。上で述べた本当のメッセージは、トランプ陣営の支持基盤である白人男性で高卒以下の低所得者層に、特に浸透しているのです。


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